【長方形の湖】
澄んだ水と、色とりどりの花の咲く美しい湖。それは確かに空の棺桶だった。それを眼前に一人立った男は、腕を伸ばし、手のひらを下にしてゆっくりと開いた。
ぽちゃん……――
それは木でできた十字架だった。
男の背後から現れた人物は、それを拾い上げた。呆然としている男の顔を、彼は見た。
「会いに来るのが、遅くなりました」
「おかえり」
「……ただいま」
その人物の後ろから、ひょっこりとアルモニカが顔を出した。
「この人、酷いでしょう?」
「ああ」
久々に弟子の顔を見た男、チトセは、目の前で起きている状況を理解して、胸がいっぱいになった。
「ああ、そうだね、……でも、」
溢れた想いが大きすぎてチトセの言葉は声にならなかったが、その場にいた三人は同じことを考えていた。
「約束はちゃんと、守るんですよ」
込められた想いが大きいほど、極彩色の湖は美しく輝く。
瞳に揺らめく鏡面が、色と光を強く見せる。
『ねえ、言ったでしょう?――さよならを告げても、また出会えることもあるのですよ』