5話「闇夜の列車」





 ぴちょん。ぴちょん。

 どこからか、水が滴る音がする。
 こつりこつりと靴を響かせて闇を歩く影。廊下には、金の灯った無数の明かりが並んでいる。
 影は闇から明るい場所へと出る。彼女の目に入るのは、煌びやかな装飾が施されたドレスを纏った巨大なオブジェ。高い天井にあるステンドグラスから落ちる美しいその光を浴びて、影は、黒く簡素な黒いドレス、透けるような白い肌や銀の髪、そして光る金の瞳を現す。
 白銀の髪の少女はその金を揺らめかせて、黒いドレスのオブジェ、人の形をした巨大な人形を見つめる。
 背後に並んでいた金の明かりがふらふらと動いたかと思うと、一つ、また一つと下へと落ちて、彼女の足元へと擦り寄った。それは、明かりなどではなく、金の瞳を持った黒く丸い何か。

「マザー。マイマザー」
「我々は花の開花を。種の行方を捜すだけ」

 どこからか声が聞こえる。鈴が鳴る声で、少女もそれに加わる。

「マザー、マイマザー」

 周りにはまばらな人影。声は段々と重なり合い、大きくなっていく。

「我々は花の開花を。種の行方を捜すだけ」

 憂いを帯びた垂れ目がちな瞳。彼女はスと人形を見上げる。

「貴女の為に。私の為に。我が、兄弟の為に」

             ◆◇◆◇◆

「ねえねえルート!」
「なあにケイト」
 テトロライア王国の首都メインライアのある駅で、若い二人の男女がその明るい声を人のいない闇夜に響かせる。
 地味なテトロライアの風土に合わないその派手で洒落た見た目から、隣の小国ルティア公国の者だと思われる。
 女の方は白いドレスを着ている。長く真っ直ぐな黒髪と、まだ幼さの残る表情豊かな顔。女性という言葉より少女と呼ぶに相応しい。
「これ、何号車に積めって言われてたっけ?」
 ケイトは二人で抱えた木箱、そして足元に置いた幾つかのそれを見遣る。一つ一つはそんなに大きさはないがやたらと重い。ルートはうーんと考えた末、思い出したようにあっと呟く。
「依頼者は、人目のつかない所ならどこでも好きな所に積めと言ってたね。その辺にしようか」
 そう言って、格納されている列車に乗り込んで、ごそごそと隠し込んでいく。そうして降りてきた二人は顔を見合わせにこりと笑う。そしてイエーイと明るくハイタッチをする。
「任務完了だよ!やったねルート!」
「そうだねケイト」
 オーバーに喜ぶケイトと落ち着いたルート。……恋人同士というより子供と保護者のようだ。
「依頼者のお兄さん、あれ乗せるだけでいいってどういうことだろうね?私達運び屋としてこれでいいのかなあ……そういえば、何が入ってるんだろうね?」
「どうなんだろうね。ごろごろしてたから丸い物だと思うんだけど」
 ルートの言葉に少し考えたケイトだったが、急に顔を輝かせ、興奮気味で話す。
「分かった!きっとドラゴンの卵だよー!」
 きゃーすごーいと無邪気にはしゃぐ。伝説の存在を彼女は信じているのだろうか。どちらにせよ、その言動から彼女は見た目よりも更に中身が幼く感じられる。隣の恋人はそれを見て少し困った表情であるが。
「ドラゴン。ドラゴンねえ……」
「ふふ!楽しいね!楽しいねー!」
 脈絡の無い会話を一方的に振り、楽しそうにルートの手を取り回る少女。諦めたのか、彼も一緒になって回る。
 真夜中の駅。狂々としたその姿は、誰の目にも触れることはなかった。ただ、木々の隙間から覗く紅い目の鷹以外は。

             ◆◇◆◇◆

 北方の大国、スヴェーア帝国へと向かう列車は夜の闇を走る。まだ北の地には程遠い。その列車は今、混乱に包まれていた。

「アーサー、氷は出すなよ!」
「分かってますって!」
 車両の窓から身を乗り出しサクヤが叫んだ。風を切り走る列車の音に負けないよう、アーサーも声を張り上げる。列車の上に立ったアーサーは、大剣を危なっかしく振り回し、わらわらと寄ってくる小さな悪魔を切り裂いていく。照らす物は悪魔の金と月の青白い光だけ。
「何だ、すごい量だなあ!何がどうなってんだ、よっ!」
 切っても切っても現れる低級悪魔。悪魔の目の色である金が、闇の中で無数に蠢いている。小さく丸い浮遊型悪魔から、這い回るモノまで。一体どこから湧いてくるのか。こんなにも多いが、唯一の救いは全て下級悪魔であるということくらいか。
「くそ!他の奴は何してる!」
 アーサーが屋根の上で闘っている時、共に乗車していた一般隊員は各々に、列車内の悪魔と格闘していた。


「フレッド!フレッド!!悪魔だ?!うわあああ!!」
 眼鏡の青年教団員が、べそをかきながら自分よりも背の低い青年に泣きつく。彼も彼で、ゆっくりと迫り来る液状の黒に焦る。
「落ち着けレイン。銃だ銃。持ってるだろ、あやべぇ、客室に置いてきたんだ、レイン持ってるだろお前何とかしろあばばばば」
「無理だよお!エクソシストじゃないんだよ!?俺必須じゃなかったから対悪魔戦闘訓練受けてなかったんだよ!俺悪魔無理!何かこいつぬるぬるしてるよ!?どどどどうしよう!」
「必須に決まってんだろ何言ってんだ!とりあえず間合いを取るんだ、無理とか言ってないで貸せ!」
 フレッドがレインの銃をぶん取り構え、撃ち放つ。もたついてはいたが、アメーバのようにゆっくり動くこの悪魔には間に合ったようだ。頭部と思しき部分がぱんと後方へ吹き飛ぶ。そしてびちゃりと後ろの壁へ体液を飛び散らせた。
「やったか……?」
 ほっと一息つく間もなく、フレッドは違和感を感じ取る。緊張を解かずに、膝から崩れ落ちたレインを庇うように前に一歩踏み出す。その瞬間、飛び散った液体が逆流し本体へ戻ったかと思うと、今までの動きは何だったのか、すごい速さでこちらへと襲いかかり、フレッドの両足は黒に飲み込まれた。
「ああああフレッド!」
 叫ぶレイン。お前は逃げてろ!そう言おうと振り返ったフレッドだが、レインは既に黒に絡め取られている。
「くそ、何が悪魔だ!」
 フレッドは荒く叫ぶと、銃をゼロ距離で何発も撃ち込む。ぱしゃりぱしゃりとその頬に黒を飛び散らせ白い煙を頬から立たせるも、一向に効いている気配が無い。そのうち弾切れを起こしてしまった。
 もうダメかと思った時、急に目の前が真っ赤に染まる。苦しそうに悲鳴のような声を上げる悪魔。そして肌に熱さを感じる。業火に焼かれたその悪魔は、やがて灰となった。フレッドはふらふらと座り込む。
「ロ、ロヴェルソン副隊長」
「サクヤさんだぁ……!」
 前の号車から現れたのはサクヤ。いつもよりふわりと広がった髪。その色は赤だったが、徐々にいつもの黒へと落ち着いていく。いつもなら中身のない両袖に今日は中身がある。義手を付けているのだろう、傍から見れば違和感は感じない。
「大丈夫か」
「うっうっ……」
 きりっとしたその女性の顔を見てレインは泣き出す。まるでヒーローだ。それを見て狼狽するサクヤ。
「な、何故泣くんだ。大丈夫か?どこか痛む所でもあるのか?」
「あーー大丈夫っす。こいつのことは俺に任せて、気にしないでください」
「そ、そうか」
 少し腑に落ちないという顔をしたサクヤだったが、行くべき用事があるので直ぐに立ち去る。それに対してレインはまだ泣き続けていた。
「サクヤさんかっこいい。サクヤさん強い。お、俺が守るとか思ってたのに守られてるう……」
「まあ、対悪魔に関してエクソシストは別格だもんな」
 少々泣きすぎのような気もするが、フレッドは慣れているのかあまり相手にしていない。その時、別の車両から、物々しい火炎放射器を構えた教団員が入って来た。もじゃもじゃとした長いブロンドの髪。煤けた肌に、厳ついゴーグル。驚いた二人だったが、ばさりとゴーグルを外した姿を見て、ほっと息をつく。
「おやおや、泣き虫レインとちびフレッドじゃないか。まだこんなとこにいたのか」
「メリゼル班長じゃないですか!?どうしたんですその格好!」
「めっめっメリゼル班長おおお」
 おおお泣くな泣くなと笑い、レインの肩をばしばし叩くメリゼル。いかにも強い女性という感じである。
「セヴェンリー、お前もうすぐ二十歳だろ。こんなんでいいのか?」
「よ、よぐありまぜん……」
 なら強くなれセヴェンリー。そう言って厚い手袋のまま彼の両頬を軽く叩く。手袋に付いていた悪魔の残滓がレインの頬に触れ、焦げ付くような音と煙を出す。彼はひいいと声を上げるも、彼女は全く気にする様子もなくフレッドの方に向き直る。
「そう言えばうちの班は悪魔と遭遇したの初めてだな?いやいや、こんな筈じゃあ無かったんだけどなあ。ホント運が無いな」
 そう言って苦笑いのままがしがしと頭をかく。
「私はお前達と同じ一般戦闘員だが、悪魔とも戦える。たったあれだけの悪魔に対してこれくらいの装備が必要なんだ」
 悪魔を見たのはフレッドにとって初めての経験ではなかった。それでも倒すとなれば話は別だ。同時に、あんなものを常に相手にしているエクソシストは格が違うと思い直した。ルームメイトの彼も、あんなのだが実はすごい奴なのかもしれない。
 煤けた頬を手の甲で拭い、ゴーグルを掛け直すメリゼル。火炎放射器も装備し、さてとと二人に呼びかける。
「お前達みたいなピヨっ子は、安全なように一番後ろの号車に集められてるんだ。私が連れて行ってやる」
 ありがとうございます。そう言って立ち上がったレインの未だに泣きそうな表情を見たメリゼルは、安心させるように笑いかけた。
「因みに、私はこの状況が特に危険であると思ってはいないぞ。何しろ今回の遠征には三番隊が丸々付いてるからな」

             ◆◇◆◇◆

 屋根の上。ずっと剣を奮っていたアーサーだったが、悪魔相手に剣を薙いだ時、疲れからか元々不安定な足場だからだろうか、バランスを崩してしまった。
―やばい、死ぬかも
 そう思った時、上から黒い何かが伸び、彼の体に巻き付いて既のところで吊り上げる。顔を上げると、緑の瞳を持った少年がこちら腕を伸ばしている。アーサーを支えた黒は、アンリのティテラニヴァーチェだ。
「アーサーさん。しっかりしてください」
「遅いじゃねえか。……ああ、しっかりしますよっと!」
 にやりと笑い、屋根に手を掛け体を勢いよく引き揚げるアーサー。
「借り作ったな」
「いいんですよ、そんなことより……っ!」
 言葉が言い終わらないうちに、アンリは足を踏み出し右腕を伸ばす。ばしゅり、とアーサーの斜め後ろで悪魔が割かれる音がした。そのままアンリは流れるように、自らの背後の敵を切り裂く。アーサーも、後ろを向いてぶんと大きく剣を振り、飛んできた悪魔を叩き斬っていく。そのうち二人はトンと背中合わせになった。
「敵が減ってきたな。背中は預けるまでもねえな、新入り」
「アーサーさん。恐らくですが、僕達の役割はここで時間稼ぎをすることでも敵の数を減らすことでもありません」
 止まらない列車。その音の中、アンリの精一杯張り上げた声が聞こえる。それに、どういうことだという風にアーサーが首を傾げる。
「これは、この状況と数は、恐らく"卵"です」
「なんか聞いたことはあるわ。こんなにも沢山孵るもんなのか」
「一度、先生といた時に遭遇したことがあるんですよ。なかなか大変でした」
 そもそも悪魔は卵から孵るのか。先生とは誰なのか。今後ろにいる彼は一体どのような状況でそれに遭遇したのか。疑問は残るが、アーサーは彼の言葉に納得することにした。一々問いただしている暇はない。
 彼は"卵"というものがあること、食堂にいた別のエクソシスト隊の隊員が話していたのを聞いたことがある程度だった。普通に孵化して幼生から成長したりもしないようだが、孵化すると厄介でとにかく孵らないようにしなければいけないそうだ。
「って!もう孵ってんじゃねえか!」
「そうですね?」
 突然大きな声をあげたアーサーに、アンリはキョトンとする。
「やべえな!じゃあ結局は全部倒さねえといけねえんだ!」
「ちょっと待ってください!」
 焦り走り出したアーサーの右腕をアンリが掴んで引き止める。振り向いたアーサーに、彼は落ち着いたまま告げる。
「卵は複数箇所にあって、そのうちまだ孵っていない物がある可能性があります。それに卵は孵ると一斉に悪魔を吐き出すのではなくて、一つ一つ順に生み出すんです。落ち着いて行動するべきです。低級悪魔に構う前にすることがあります」
 だから常に囲まれてたんじゃないですか。と。つまりはそうして卵を見つけて破壊するということだ。そうか、そうかとアーサーは言い、息を吐く。
「お前は落ち着いてるなあ。しかも卵にも詳しいみてえだし、その歳でかなり経験積んでんだな」
「こう見えても十七ですよ」
「嘘つけ。成長期もまだっぽいじゃねえか」
「ええっ、酷い……」
 一瞬で嘘だと断定された十七歳。確かに十五くらいにしか見えないが、色々あって彼はしばらく永遠の十七歳なのである。実際のところどうなのかは本人にも分からないが。
「……えっと、卵を捜しましょうか。あとやっぱり屋根から降りましょう」
 そうしてすっかり悪魔の少なくなった屋根を降り、二人は人のいない車両内を駆けていった。


 一番後方の車両は比較的安全だったはずだ。だから一般隊の避難場所になっていた。そう思い、二人は先頭車両へと向かう。途中で会った副隊長に卵のことを伝えると、今彼女も探している所だったらしい。付け加えられたのだが、あまり急ぐ必要はないと言われた。何故かと聞く前に行ってしまったが。

「なあアンリ。前のあれ、悪かったな。謝って済む話なのかどうかも分かんねえけど」
 あれ。とは、アーサー達がアンリの話も聞かず挙句の果てには前庭と共に凍らせてしまったことだ。アーサーは気にしない振りをして話題には出さなかったが、やはりそのことを気にしていたのである。下を向いたアーサーに対し、アンリはいつもの飄々とした調子のまま、いいんですよと返す。
「アルさんにも言われました。でもそちらにはそちらの事情があるみたいですし、こうして普通に接してくれるだけで嬉しいんですよ」
 ただ自分でもどうしたらいいか分からなかったから、どちらかと言うと好都合です。そうぼそりと零した声は、列車の音にかき消されアーサーには届かなかった。
「なんかやっぱり達観してるな。ちょっと尊敬するわ。……ありがとな」
 へへと笑うアーサー。その顔を見てアンリも笑う。その時アーサーは違和感を感じたのだが、それが何なのかはっきり分からないまま、アンリが口を開く。
「アーサーさん、なんか変じゃないですか?いくらなんでも敵の数が少なすぎるような」
 確かに。屋根の上にいた時の敵影の数とは比べ物にならない少なさ。この号車に至っては一つも見ていない。
 次の号車。ちらりと顔を覗かせると、そこにいたのは長いポニーテールの少女だった。
 足元に散らばっているのは白や青のガラスのような破片。その擦れる音と共に長いブーツの片脚を上げ、ゆらりとこちらを見上げる。
「あら。遅かったじゃないの。もう終わったわよ」
「ア、アルモニカサンちわっす……」
「ちわっすじゃないわよアーサー。あんたが屋根の上で無駄な動きしてる間に片付けたわ」
「無駄な動きすかー……」
 がちゃりとガラスを踏む音を立ててアルモニカが近付いていく。その時、ひょこりと顔を出したアンリを見て、急にアルモニカが纏う空気が変わる。
「アン……えっ!大丈夫なの!?すごいマカイ付いてるよ!?」
「えっ、そうですか?」
 魔灰とは悪魔を倒した際に、その死体が変化した黒い灰のような物である。悪魔本体は触れると溶ける、灼けるなど何かと問題が起こるが、魔灰はそこまで害はない。
「魔灰くらい大丈夫ですよ」
 アンリが横のアーサーの顔を見る。確かによく見ると灰で汚れている。自分も同じような感じなのだろう。
「だめ、体に悪いよ」
 アルモニカはそう言って、すっと取り出した女子力の塊のような白いハンカチを、彼の頬を擦りつけて乱雑に魔灰を拭き取っていく。
「魔灰くらいでそんな。過保護過ぎなんじゃねえの」
「うるさいわねアーサー。すごく煤付いてて汚いわよ」
「うわ。これが扱いの差……!」
 地味にショックを受けるアーサーをよそに、アルモニカは嬉しそうに、綺麗になったとハンカチを仕舞う。
「なんか、世話焼いちゃうのよね。年下だからかしら」
「十七歳です!」
「もうそれいいって。私より年上な訳無いじゃない。ステンスレイ上級官からも聞いてたし」
「じゃあ……もういいです」
 あっさりと足蹴にされた主張。デジャヴを感じる出来事に、アンリも流石に諦める。
 上級官からも聞いたと言うのは、彼の入団手続きに必要な資料をチェックした人物こそステンスレイ上級官だからだ。結局歳は十五にされ、その他諸々捏造されてしまったが。
 後方車両へと戻る一行。その道中でも会話は続いていた。主にアルモニカとアンリのだが。
「背が低いから余計ね」
「ア、アルさんとほとんど変わりませんよ。それにアルさんの武器厚底ですし……」
「えー、そうかな。でもその方が可愛いし良いと思うわ」
「か……可愛い……」
 アルモニカはアンリの反応を気にせず楽しそうに笑う。そんな中、押され気味のアンリに対してアーサーが口を挟む。
「男としてチビも可愛いも辛いな、どんまい」
「アーサーさん、ジャーマンスープレックスしていいって言われてるのでしていいですか」
「えっ何で急に、誰に?!」
「フレッドさんに、アーサーさんにチビって言われたらジャーマンスープレックスしろって言われてるので今度しますね?」
 割と理不尽なことを言われたアーサー。一体あの一般戦闘員に何だと思われているんだ。
「良い訳ねえだろ。分かってんのか死ぬぞあれ。……その前にお前結構ひょろっちいけどできんのか……?」
「アンリ、今度と言わず今掛けていいのよ」
「アルてめえ何そそのかしてんだ、って、おい!」
 反論を聞き終わらないままアーサーの体は宙に浮き、アンリのジャーマンスープレックスが炸裂した。

「エクソシストじゃなかったら死んでたぞ今の!!」
「ごめんなさいアーサーさん」
「ごめんアーサー、エクソシスト関係ないけど」
「よし許す」
 やたらと上手に受身を取ったアーサーは、言う割にはピンピンしている。フレッドの言ったことはこういうことだったのかもしれない。違うかもしれないが。
 アーサーは、ボソりとアルモニカがちょろいと呟いたのを聞かないふりをした。


 卵の数は、全部で三つだった。それぞれサクヤとアルモニカのみで破壊するに事足りた。ベルガモットの判断により、列車を止めるとこも無いまま解決した。
 問題はどうしてこの列車に卵があったのかと言うこと。そして、"ハッチャー(Hatcher)"の存在である。
 悪魔の"卵"とは、人か悪魔かは別として、自然の物ではなくある程度人工物だとされている。そしてそれを孵すにはハッチャーという働き手が必要だと推測されている。何も働き掛けないと卵は孵らない。つまりはこの列車の中に、卵を孵した人物がいるのだ。

 だが、それも分からないまま、翌日列車は目的地スヴェーア帝国の首都アレクセイエスクへと到着する。

 確実に、"なにか"を乗せたまま。







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