「あなたは不服そうね。塔の目ちゃん」
そう言いふっと笑ったミカミの顔を、じっと見つめていた少女。彼女は、全てを見通す力を持ち、本部に登録された通信機器の通信距離を大幅に伸ばすことにも一役買ったローセッタ・レンズの適合者、トーレ・セルディス。そう、紛れもないあの少女、トーレであった。本来司令塔の一角に彼女の席があり、適宜通信機器の制御をしていたはずであるのに、何故こんな所にいるのか。
彼女は、先にレンズのついた杖――ローセッタ・レンズを握りしめて、膝に手を置いていた。その指はぎゅっと握りしめられている。痛々しい目に遭った様子もなく、ある程度の落ち着きが感じられたが、彼女はキッとミカミを睨みつけていた。
「……手を出さないって言った」
あら、とミカミは目を見開く。
「それはあなたのお兄さんに、でしょう?それでいいって、あなたも言ったじゃない。わざわざレイズから見つけてきてあげたんだから」
「……だって、イサアクお兄ちゃんは、たった一人の、家族だもん……本当の、お兄ちゃんなんだもん……」
ミカミは深く溜息をついた。膝に頭を埋めてトーレは蚊の鳴くような声で呟く。
「ごめんねテンちゃん、ごめんね……」
トーレには兄がいた。本当の兄、唯一の家族。周りに明るく振舞っていても、いい子を演じていても、トーレの寂しさが拭い去られることはない。そんな時、敵であるはずの赤い服のガーディは、生き別れた兄と引き合わせてくれた。その結果、トーレにとって大事になった人々に迷惑がかかると分かっていても、彼女は武器使い達を裏切ることになってしまったのであった。
◆◇◆◇◆
テンは人を待っていた。ガラガラになった本部は閑散としていて、何処も彼処も彼女に寂しさを感じさせた。施設の職員や子供達はいるのだが、そこに彼女の親友の姿は無い。
彼女が別れ際に約束をした人物とは、何故かここにいれば会える気がした。少なくとももう一度は会えると、テンは確信していたのだ。研究所で初めて出会い、再会し、少しの時間ではあるが一緒に過ごした彼と。
テンは知っていた。例の彼は、テンのことを嫌ってはいないが、その好意は妹に向けるようなものであるということに。そして、テン自身、そんな彼の優しさに漬け込んで今まで接してきていた。
枝葉がざわめく木陰の下で、芽が出始めたばかりの花壇の花に、彼女は水を遣っていた。そんなテンの背後から、ひそりひそりと忍び寄る影に、彼女は気付く由もない。
「やあ、」
暗闇からぬっと伸びた両手で、首を絞められた。
「!?」
心臓を掴まれたような感覚、テンは頭が真っ白になり、思わずジョウロを落とす。振り返ると、初めて見たのにも関わらず、よく見覚えのある顔の女が立っていた。女は両手を後ろで組んで、頭を傾けてにっこりと笑った。テンの首は絞められていたのではなく、首筋に手を添えられていただけだった。
「驚いた?ミクスちゃんだよ」
テンは息を荒げながら、瞳孔の開いた瞳で女を見上げる。
「あなた、まさか……」
「えへっ、気付いた?オリジナルのミクスちゃん!」
「……」
後ずさると、先ほど撒き散らしたジョウロの水が、ぴちゃりと水の音を立てる。テンは下唇を噛みながら、無言で彼女をじっと睨みつけていた。
「そんなに睨みつけないでよー。あたし達姉妹でしょ?」
「やめて」
「えー?冷たいなあ」
ミクスは唇を尖がらせ少し気分を悪くしたようだったが、すぐに機嫌を直し「あのね、」と続ける。
「お前には、これから始まる兄弟喧嘩に参加するかどうかを聞こうと思ってたの!」
「兄弟、喧嘩……」
「そう!」
「何言ってるの。兄さんは来ない。あなた達が兄さんを追い出したくせに」
その言葉に、えー?と身を仰け反らせるミクス。パタパタとジェスチャーをしながら馴れ馴れしくテンに語りかける。
「それについては大丈夫だよ!だって、マスターが絶対来るって言ってたもん!わざわざあれもこれも順序立ててやったんだもん!絶対大丈夫だもん!ねえーいい機会だからお前も来ないー?」
無邪気に笑うミクスと対照的なテンは、眉をひそめたまま首を横に振る。眉間に皺を寄せたミクスは、パチンと両手を合わせた。
「はーいつまんない!でもいいもん!あたしこの為に生きてきたようなものだもの!楽しんでくるから!」
じゃあねと笑顔で手を振ると、彼女は嵐のように去っていった。
すっかり生気を吸われたテンは、空のジョウロを拾い上げると、水を入れ水やりの続きを始めるでもなく、そのまま倉庫に仕舞った。
「何の為に、水遣りなんて。この花が咲いたのを見て喜ぶ人なんているの?誰も見れない。みんな死んじゃうのに。私は、一体何の為に……」
溢れそうになった涙をぐっと堪える。暫く耐え、感情の山を越えたテンは、倉庫の扉を閉めると、もう一度中庭へ足を運んだ。
(あ……)
そこには、昼下がりの優しい光を受けながら、膝を折り、水に濡れた花壇を眺めている青年がいた。アーサーだ。
声を掛ける前に、彼はテンに気付いたのか振り向いた。
「おかえり」
「ただいま」
彼が無事に帰って来ることは、テンの予想通りであった。一人で帰ってきたということは、兄を連れ戻せなかったと言うことだが、これもまた予想通りである。
「でもまた行ってしまうんですね」
「ああ、こんな事態になってるとはな……」
テンはゆっくりと歩み寄っていく。「お前が水遣ったのか」という何でもない質問に、「はい」と何でもない返事をした。
「髪の毛、伸びたか?」
「ええ、まあ」
テンは答えながら毛先を弄る。
「背……は、あんまりだな」
「酷い」
少しだけ拗ねたテンの顔を見て、アーサーはへらへらと笑った。
「あはは、悪い悪い。……元気にしてたか」
「ええ。お陰さまで。この身体はピンピンしています」
身体はね、テンはそう言いかけて口を閉じる。いたたまれなくなったテンは、ふいと顔を背けて、逃げようとした。そんな彼女をアーサーは見逃さなかった。
「……やっぱり、まだ自分じゃないって思うのか」
「……」
テンの体はテンであってテンではない。一度死んで生き返った身である。だが、その姿は元の姿より幼かった。テンは振り返る。
「気付いていましたか」
アーサーは立ち上がり、膝の土を払いながら「まあ何となくな」と答える。
「もっと鈍感な人かと」
「え!?ば、バカにすんじゃねーよ!」
テンは目を細めて顔を戻す。
「……だってこんなのじゃだめです。こんな子供の身体じゃ……」
アーサーは、どうしてなんて言わなかった。
テンの抱える事情は複雑だ。この小さい少女の素性を知る者はほぼ皆無であるが、アーサーだけはテンの元の姿を知っている。彼はテンに何も言わなかったが、彼女の複雑な気持ちに気付いているんだろう。
「それでも救ってもらったんです私は、あなたに」
(……ちゃんと守れなかったけどな)
アーサーは、忘れていたわけでも、記憶の底に押し込めていたわけでもない。けれど謝らないでくださいと言ったテンに、この話題を出すことができなかった。
「アーサー。私はあなたと出会った時のこと、よく覚えています。冬の冷たい地下室で他人を助けようとしていたあなたのこと。……人の為に怒り、人の為に自分を犠牲にするあなたに、どうしても約束してほしいことがあります」
きょとんとしたアーサー。彼に近付いていったテンは、口元に手を添え服の袖をちょいと引っ張った。
「……?」
小声で言わなければならないことなのかと、身を屈め耳を貸した時、アーサーの頬に柔らかいものが触れた。
「……え?」
顔を離したテンがくすりと微笑む。アーサーは唖然として、固まったまま。
「どうか生きて帰ってきて。私は、あなたの事が好きだから」
そう言い残し、固まったままのアーサーを放置し去って行こうとするテンを、アーサーは追いかけ腕を掴む。テンは驚いた顔で振り返った。
「な、」
「おい!……あまり、大人の男をからかう真似をするなよ」
驚いた表情だったテンは、次第に余裕のある顔に変わる。まっすぐ目を見て少し意地悪そうに微笑んだ。
「あらごめんなさい。私だって、あなたが思うよりは大人ですよ。子供扱い、しないで」
その時、掴んだ腕をすっと引いたのに、テンは驚いた。
「……!」
突然の急接近。力強く拍動する心臓。テンは思わず両手で拒絶する。
「あ、あ……、えっ、と、」
目を泳がせる、そのまま腕を振り解くと背を向け走り出した。
「あ、おい!」
またもや逃げるテンをアーサーは、埒が明かないと追いかけ、壁際に追い詰めた。壁に背を付け行き場の失くしたテンは、焦りと動揺に瞳を揺らしながら首を振った。この声は震えている。
「どうして、どうして?あなたは私のことなんか視界にも入っていない筈で、あんな試すようなことしない筈なのに、」
「あのな、好きとか好きじゃないとか、そういう単純な話じゃねえんだよ。お前の抱いてる気持ちだって、」
「違う!絶対に違う!そんな事言われても私は!私にはあなたしかいないもの!この想いをあなたにぶつけてはいけないの?!あなたがそんなこと言うなんて、ずるい。本当にずるいです。あなたは、この感情をよく分かってる、くせに……」
遂にテンの心の堰が崩れ、充血した目から涙が溢れた。泣きじゃくるテンを見ながら、申し訳なさそうにアーサーが零す。
「ごめん……」
テンは首を横に振る。しかし、アーサーが直後に放った言葉は彼女にはあまりに予想外だった。
「でも、よく見てるんだな。俺のこと」
「……?」
目の前の彼が何の話をしているのか、テンには瞬時に理解出来なかった。涙が止まる。
「俺さ、好きな奴にはもう何度も振られてるんだ」
「……え」
「お前が子供じゃないとか、知ってるよ。人は見た目じゃないって、分かってるよ。お前が子供だからとか、そんなんじゃない」
「じゃあ、きら――」
「それも違う。違うんだ。ちょっと時間をくれよ、考える。帰ったら答えるから」
テンは首を横に振った。
「……それじゃだめなんです。今、ききたい」
「お前は俺が負けて死ぬとでも思ってるのか」
「違う」
「それとも、世界が滅ぶとでも思ってるのか」
「!……ち…………がう……」
明らかに否定しきれていなかった。
「なんで、知ってるんですか……」
「聞いた。エルドバの駅で、お前の姉に」
「……っ」
宥めるように、アーサーはゆっくり語りかける。
「あいつは大丈夫って、あの時お前は言ったろ。お前は、兄貴を信じてそう言ったんだろ」
テンは目を見開く。
「それは!……それは、開花を目前にして易々と死なせるわけないと思ったからです。兄さんは、死にたくても死ねないはず。生きることだけが正解とは限らない。……あなたが殺してあげても、良かったのに」
知らない単語、けれどそれよりアーサーには、激昂するだけの十分な理由があった。
「ふざけたこと言うんじゃねえよ!最後まで諦めちゃいけねえよ、死んだ方がいいなんて、あるわけない」
直後テンは真っ赤な瞳で叫ぶ。
「兄さんのこと、分かってない!あの人の苦しみの全てをあなたは知らないからそんなこと言えるんです!!」
よく似た顔。本人に言われてるみたいだとアーサーは思った。その直後はっとしたテンは、俯いて、小さな声で続けた。
「……大声出して、ごめんなさい。本当は、もうすぐ全部終わってしまうなんて、悲しくて、やるせなくて、でも誰にも話せなくて、不安で潰れそうなんです。その分、兄さんの痛みを思うと耐えきれなかった。血が繋がってるからじゃない、一緒に育ったからじゃない」
「俺は、あいつのこと信じたいよ。またここに帰ってくるって。その可能性を否定したくなかった。……悪かった。お前の気持ち、考えずにもの言って。お前は俺より前からこのことを知ってて、悩んで考えてきたんだよな。ごめん、否定して」
その言葉に、テンはわっと泣き始めた。呼吸さえままならない程に、抑えきれない感情のうねりが、堰を切って溢れ出す。その様子にアーサーはひどく狼狽した。
「え?!どっ、え?!ごめん!!」
だが、テンの涙は悲しみの涙ではなかった。暫く経って少し落ち着いたテンは、深呼吸をした。
「やっぱり、あなたが好き。変わらず真っ直ぐで、どこまでも優しいあなたが。なのに、私は、そんなあなたをこんなに、困らせて。……ごめんなさい。もう、行きます。……気を付けて」
涙を拭いながら去るテンを、アーサーはもう一度引き止めた。
「もう少しだけ、俺と話してくれ」
◆◇◆◇◆
【アーサーの独白】
ああ、こんなに神とやらに祈ったことはない。
ここに生きている心地がしない。これから始まることが、全くもって受け入れ難い。お前もそんな気分なんだろうか。
それでも俺はお前を信じよう。過剰期待でご迷惑だろうが、文句言ってもいいからどうか受けてくれ。願いを聞いてくれ。お前がお前にしかできないことをするように、俺は俺しかできないことを必死でやるから。どうか、またここで会おう。
彼は手持ちの最後の黒の瓶を床に叩き付けると、飛び出た黒に飲み込まれた。
そのまま、彼の体はエルカリア半島の戦地へと。
もうすぐ始まろうとしていた、最終決戦の地へと。
◆◇◆◇◆
時は僅かに遡る。
おおよそ、アルモニカがレディの元を訪れる五日前、そして、アーサーが本部に一時帰還した七日前のことだ。
【回想・レディの研究室】
顔を見るなり単刀直入に質問を投げかけてきた二人に、レディは彼の余裕の無さを感じながらも、追い返すことなどせず、部屋に招き入れる。
「花を人を分離させる方法ねえ……ワタシは知らないけど、ブックに記載があるかもしれない」
レディの言葉に、怪訝な顔をしたのはアンリだった。
「ブック?」
「ああ。世の中の全ての事象が記載されているという書物」
フフと笑うとくるりと向きを変え、レディは壁一面の巨大な棚を物色し始めた。その様子は気にはなったが、それよりアンリにはそのブックとやらのことが知りたかった。
「昔からあるんですか?」
「伝説上はね。かくいうワタシも見たことは無いからねえ」
「最近のことも載っているんですか?」
ああと振り返り、レディは両手を広げる。
「そうさ、ブックの内容は古今東西往古来今。全知の書なのさ。予言書とも呼ばれてるよ」
(……急に胡散臭くなったな……)
アンリは思わず眉を顰めた。レディの鋭い瞳はそれを見逃さない。
「ワタシの話を信じてないだろう?そういう顔をしている」
「……ええ、正直言うと」
「正直なのは良いことだ。君には是非そのように生きてほしいね。……ともかく、他に何も手掛かりが無い以上、闇雲に探すよりはいいと思わないかい?」
「それは一理あります。ですが、実在するか分からない伝説上の存在を追い掛けるのも、闇雲に探すのと同じなのでは……?」
「そう思うかい?遺跡を探すとか、色々あると思うけど。焦っちゃ良くないよ」
このピエロは無茶を言う。
「悪いけど、ワタシは君に掛かりきれない。ヒントはあげられるけど、自分で探してもらう。意地悪してるわけじゃないからね」
「ええ、分かってます。新しい情報を頂けただけで十分な収穫です」
腕を組んだレディは、それとね、と口を開く。
「大事な助言をしてあげよう。赤い目の鷹には気をつけて」
「?」
何のことか、アンリにはおろか側に立っていたリィンリィンにも全く分からず、目を合わせると彼女は首を横に振った。
「まあ比喩表現みたいなものさ」
レディはふふんと笑った。
◆◇◆◇◆
レディの言葉に従い、二人はブックを探した。スヴェーアから南に下り、東を目指しつつ、点在する古代の遺跡を回った。不思議と読めた表語文字から、何となく嫌な気はしていたのだが、その本体が見つからない。
遺跡にあった石からは、ブックについて言及している文言が度々見受けられる。だがそれは本当に伝説上のものだと感じられた。何処かにある霊的な存在で、この世の全ての事象が書き記された石板だの、光で文字が刻みつけられているだの。そんな訳の分からないものを探すなんて雲を掴むような話だが、アンリは東方にいた時とある任務でオカルト的なものに触れたことがあった為に、なまじ否定はできなかった。
二人が遺跡を回る最中、ハザール帝国の最西端の都ミジャンスクにてアンリが重症を負ったため、その足取りは一時停滞することとなる。
リィンリィンが妙薬を持っていた為傷は簡単に塞がったものの、理由はそれだけではないと彼女は気付いていたらしい。目の前の彼が人なのか、人の形をした何かなのか最早分からない。けれど、リィンリィンにとってはどちらも同じものであった。その原因である花というものが、悪魔であるリィンリィンに影響を及ぼしているとしても、この好意はそれ以前からだと、リィンリィンは信じてやまなかった。
二人には追っ手がいる。追っ手に見つからないように、二人は大きな街や駅を避けて移動していた。
ハザール帝国の東部にある、とある小さな町の、小さな宿。すっかり夜の帳が下りた町は静かで、どこからか、生き物の声がする。眠ってもいい時間なので大した明かりは灯しておらず、木のテーブルの上のランタンの炎だけが揺らぐ。アンリが座っている窓際の席から見えるのは、青白い月明かりだった。
アンリはふと左手の中に握りしめていた物を思い出す。そっと手を広げると、月に透かすようにその小瓶を見つめた。
――記憶を詰めた瓶だ。落ち着いたらでいいから見てみるといいよ。勿論強制はしないけどね。
以前、ブックについて尋ねに行った時にレディから貰った、灰色の液体の入った小さな瓶。中で揺らめく液体は、月明かりの下でキラキラと様々な顔を見せた。中身が何なのかは知っているが、どんな内容を見せられるか想像しただけで精神が疲弊しそうだった。アンリはそれを固く握り締める。
「飲まないんですの?」
突然、そこにいるはずのない人の声がして驚いて振り返る。そこには髪を下ろし、いつもとは違う風貌……どうやら寝間着のリィンリィンが立っていた。思わず落とした瓶は思いの外丈夫で、石の床を転がるとリィンリィンの足元で止まった。リィンリィンはそれを拾う。
「あ、驚かせてごめんなさい。部屋の鍵、開いていましたの……」
リィンリィンの言い訳になっていない言い訳を聞き、瓶を受け取りながら、「閉め忘れていた僕が悪いので、気にしないでください」とアンリは首を横に振った。
「――気になるんですか?これのこと」
そう言うと、「そ、そう、そうですの」とリィンリィンは小さく何度か頷く。
「それ、大事な記憶なのでは?……飲まないんですの?」
「ええ、でも、怖くて飲めやしませんよ」
そう笑って仕舞い込んだ。
勝手に部屋に侵入したことを思い出したリィンリィンは、ハッとして部屋に戻りかけた時、アンリが口を開く。
「あの、リィンリィンさん。あなたに言わなきゃいけないことがあったんです」
「?」
リィンリィンはゆっくり振り返る。月を背にした彼の表情は、よく読み取れなかった。
「こんなことを言うと、驚かれるかもしれないんですけど、」
彼女は、妙な胸騒ぎがしたという。
「リィンリィンさんって、僕のこと好きなんですか?」
「……えっ」