35話「錬金術師と時の巫女」





「ボクたちが悪魔と呼ぶもののルーツは、人間なのです」

 レイの言葉に、二人は耳を疑った。
「悪魔が、人間……?みんな……?レルだけじゃなく、今までのはみんな……?」
「待ってくれ、なぜレイがそんなこと知ってるんだ」
 それぞれ動揺の色を見せる二人。しかしレイは目を閉じ首を振る。
「かつて、真っ白な髪を持ち、黄色の瞳を持った民がいた。白は神聖な色。彼らは神に近しい存在で、皆神の力が使えたという。けれどその虚弱な体質と呪術を扱う異質さから、北からの侵略民に淘汰され、大陸の端へ端へと追いやられ、やがて、その血は途絶えてしまったという。侵略民の上書きした歴史しか知らないボク達の記憶からは、彼らは消されてしまった」
 彼女の瞳は遠くを見つめ、遠い昔話でも語るような口ぶりだった。


「大陸東方世界の東端、今のエルカリア半島。そこにあった唯一の私たちの集落に、ある男はいたの。彼は何故か村で一人だけ、能力を持っていなかった。そのことで彼自身劣等感を感じていたのか、村の賢者の家から借りてきた書物なんかを読み漁りながら、研究に没頭していた。きっと感じる必要の無い劣等感でも感じていたんでしょう。それで、別の力を手に入れたいと必死で。……彼は錬金術師だった」
 ローザは伏せていた目をアンリに向ける。
「これから見せるのは、いくらか昔の話よ。……口で話すより、見る方が早い」
「見せる……?」
 彼女は頷いた。そして右手を伸ばし、彼の額に当てた。


◆◇◆◇◆
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【錬金術師と時の巫女】

 秋の収穫祭が終わったばかりの頃。家々を装飾する飾りなどは所々残っており、村は未だ熱を持ったまま。その賑わいの中で、少女は、だんだんと近付く冬の足音を聞いていた。

 村で唯一の、もう神父もいなくなった小さな教会。その前を掃く少女がいた。彼女の名はローザ・シャーマンといい、時々この教会の清掃をしていた。
 彼女の見た目は、白い髪に黄色の目。現代では悪魔の色とされているものだ。しかしこの時代、この場所では何も特異な色ではない。そんな彼女の前に現れた男も、また彼が連れている沢山の人達も、皆同じ色の目をしているからだ。
「やあ、ごきげんようシャーマン。今日は中の掃除は終わったのかな?」
 ローザは彼らのことを訝しげな目で見ながら、ええと頷いた。
「では少し使わせていただくよ。大事な話があるんだ。村のみんなを集めてね。ああそうだ、君も聞いていくといいよ」
 そう言って中へと入っていったこの男は、村の賢者。白い、分厚いフードとローブでよく分からないが、なんでもかなり長生きなんだとか。しかしその言動や背丈からは、ローブの下が年老いた老人であるようには全く思えない。……この村に村長という概念は無かったが、今すぐ決めろと言われたら、満場一致でこの賢者が推薦されるであろう。不思議な人物であるが、一方でそれくらい信頼と人望の厚い人物であった。
 中へと入っていく人々(……村のほぼ全員であった)を見ながら、彼女はあることに気がついた。とある友人を呼び止め恋人の名を口にする。
「ねえ待って、リュカは?」
「リューシュカなら今日は見てないな。ああ、でも確か、外の街に行くのに同行するとかなんだとか」
「そう……」
 風邪をひいて数日寝込んでいたローザだったが、その間途切れることなく看病に来てくれていた、従兄であり恋人でもあるリューシュカ。せっかく元気になったのに姿を見ないと思ったら、ずいぶん遠出しているらしい。一言くらい、言ってくれればいいのに。そんなことを思いながら、ローザは箒を壁に立てかけた。
 そして彼女は最後に教会へ入ると、後手に扉を閉めた。

 今日の話は昨日の続きだ、少し復習をしよう、そう賢者は語り始めた。ローザがいなかったこの数日間の間に、何の話がどう進んでいたのだろうか。彼女は聞き耳を立てていた。
「そう、皆は考えたことはないか?我々は何故、このように世界の端へと追いやられねばならぬのか。見なさい。この小さな教会に収まってしまうほど、我々の同胞は減ってしまった。野蛮な侵略民達がこの世界を掌握してしまい、後世我々のことを魔物のように語ったとして、我々が口を持っていなければ、その濡れ衣、疑惑を晴らすことがどうできよう?」
 賢者の熱弁に、皆は頷くばかり。ローザもその一人であった。不思議な力を持つが、その力を戦うことに使わない我々は、侵略をされても反撃する選択肢はなかった。ただどうしてこの人々は、こんなに野蛮なのかと思うばかり。深い森を抜けたこの地で、やっと束の間の安息が得られたのだと母からよく聞かされていた。もしかして、彼は我々に武器を取らせ、奪い返すと言うのだろうか。非力な我々だが、神の力を使えば……だが、そんなものの為の力ではない。いくら賢者の言葉と言えど、同意はできない。そう思っていた時である。
「だから、この不条理な世界の枠組みを書き換える必要がある。そうだろう?」
「……?」
 急に飛躍した話に、ローザはすっかり理解が追いつかなくなってしまった。だが、皆はそうだそうだと口を揃える。
「我々は神に近い存在。我々が世界の中心になるはずだった。いつか世界が変わっても、目となり耳となり、そして口となる存在の、時の巫女が必要だ。今日は、それを決めるべく集まってもらった」
 混乱しているローザを他所に、話は進む。その時、最前列にいた一人の女が進み出た。病気がちで身体の弱い、農家の娘だ。
「賢者様、私を選んでください。貴方様の神話を完成させるのに、この身を使ってください」
「ああ、よく言ってくれたパレイヴァ。だが、君には別の適役があるから、そちらをお願いしたい」
「ありがとうございます!」
 そう言い下がった女。賢者は顔を上げると、再び言った。
「時の巫女。誰にしてもらおうか、迷っているんだ。なんせ魂だから、誰がやっても差し支えないからな」
 その時、誰かが「巫女」と言った。各々連想するかのように「シャーマン」と呟き、視線はホールの一番後ろへと集まっていく。それが何を意味するか、本人にはすぐ分かった。
「わ、私?」
「ああ、シャーマン。ちょうどいい。君にしてもらおう」
 おめでとう、おめでとうと言う祝福の声と拍手が四方から贈られる。信頼する仲間からの祝福に、悪い気は起こらなかったものの、少し不安が残る。けれど、この空気の中で断ることはできなかった。

 その後行われた儀式は、特段大したことはなかった。その後皆を捌けさせ、賢者は言った。
「君はしばらくのこの村の様子を見ていなかったから知らないだろうが、少し不安が蔓延していてな。というのも、今回集会に来なかった者達は、また体調を崩している。そういう者達が増えているんだ。森の向こうの悪い風がやってきているんだろう。そのうち死んでしまうやもしれないという不安があるようだ。そのうち、いつ自分たちの血が途絶えるかまで考えるほど、不安なんだ。だからああやって明確な策を示し、満足させなければ、これから来る厳しい冬は越せないだろう?我々を奮い立たせる何か。自尊心を保たせる何か。希望が必要なんだ」
 彼の言っていることは分かる。ただ、立ち向かうことではなく、死後の話をしてきたことがローザにとって意外なことだった。
「最初、武器を取って戦えと言うのかと思いました」
 そう言うと、賢者は乾いた笑い声をあげた。
「はは、外の人間たちに力で勝つなど、元来軟弱な我々には到底無理な話だ。それにその方法は野蛮だ。奴らと変わらない。しかし何より、イーリアの民は、そういうんじゃない、もっと別の生き物なんだ。もう、その記憶も大分失われてしまったな……」
 賢者は呟くように言った。


 その日の夜、ローザが夕食を作っていると、戸を叩く者があった。
 戸を開くと、肩で息をし真っ白な息を吐く少年がいた。少し長めのしっとりとした黒髪に、黒の瞳。鼻が真っ赤になっているが、その顔はいきいきとしている。
「やあ、こんばんは。随分と冷えるね、今日は」
「リュカ、あなた走ってきたの?」
 何度か頷いた彼は、お土産があるよとにかっと笑う。ローザは彼を、部屋に招き入れて座らせる。彼は荷物を下ろしながら言った。
「元気そうで何よりだ。今日は父さんと外まで葡萄を売りに行っていてね」
「聞いたわ。あなたの口からでなくコリンからね。どうして言ってくれないかしら」
 腕を組んだローザはつんとした態度を取る。
「それよりあなた、変装解いといたら?また誰か驚かせてしまうわよ」
 変装というのは彼の髪の色と目の色のことだ。森の向こうから来たことがばれないように、彼の父の力で真逆の、黒髪でダークブラウンの瞳にしているのだ。逆に目立ちそうなものだが、大きなバザールではそういう色の人も多いらしい。
「ん、まあ後で言っとくよ」
 そう言い、真っ黒な鞄を漁っていたリューシュカ。ローザはそう言えばと口にする。
「バニアさん、今日はいないんでしょ。ご飯食べて行きなさいよ」
「よく分かったね。あの人はまた一人で飲みに行ったよ」
 そしてリューシュカは、鞄からじゃーんと赤いものを取り出した。
「はい、誕生日プレゼント」
 手の中には艶やかで真っ赤で大きな林檎。いい匂いがした。
「な、去年とおんなじ!」
「好きでしょ、僕覚えてたからね」
「う、うう……貰ってあげるわ!」
 そう言い林檎を分捕った。素直に嬉しいと言えない少女なのだ。そして彼がお土産にと買ってきたのは、この村には林檎が無いからであった。両手で持った林檎に鼻を近付けると、何とも幸せな気分になった。
「まだあるよ」
「えっ」
 次に鞄の中から取り出したのは、平たい箱。中に入っていたのは黒い布のようなものだった。リューシュカは、困惑しているローザの首元に、それを着けた。リボンのあしらわれたスヌードだった。
「わ……」
「これから寒くなるでしょ、君はマフラーを持っていたけど、好きじゃないのか全然使わないし。これがいいかなって」
 色を選んだ理由だのなんだのをつらつらと述べるリューシュカだったが、ローザはあまり聞いていなかった。
「あ、ありがとうリュカ。大事にするね」
 子供っぽく笑ったローザ。照れを隠すように彼もまた笑った。

 とりあえずご飯をと言いローザが立ち上がった時、彼女は少しふらついた。
「大丈夫なの」
 心配そうな顔をしたリューシュカに、ローザはしっかりと頷いた。
「ええ。もちろんよ。なんせ病み上がりだもの。でも、ちゃんと食べて寝たら、明日には元気になってるわ」
「それだといいけど。……村の外では感染病が流行ってるんだ。帰るのが遅くなったのも、それでいつも買い取ってくれる人が来なかったりしたからなんだ。今はただの風邪かもしれないけど、抵抗力が落ちている時は病気になりやすい。もしそうなったら……」
「リュカは考えすぎよ。ああ、そんなに心配をしてくれるなら、準備を手伝ってもらおうかしら。上着を脱いで、手を洗って、そこに置いてるエプロンを、ちゃんと着けてから来てね」
「ああ」
 台所へと向かったローザに、リューシュカは「ねえローザ、」と声を掛ける。
「なに?」
「……あ、やっぱりなんでもない」
「変な人」
 彼は最近いつもそう。何か言いかけてやめるのだ。まあいいわ、そう笑いローザは台所に消えた。リューシュカは一人呟いた。
「いつも、君のいる家に帰りたいな」

 ローザとリューシュカの親は兄弟で、バラバラの家にそれぞれ住んでいた。去年彼女の母親が他界したのを機に一緒に住むことを、リューシュカの父は提案したのだが、「小さな村だし、みんな助けてくれるし、一人で困ることなんてありません。ただ私はこの、母の家が無くなるのが嫌なんです」と断られた。だが、もう一度、今度は自分から言ってみようと、リューシュカは思った。家が無くなるのが嫌なのなら、ずっと、自分と一緒に守ろうと。力も無いし、知識も未熟な自分だが、そんなことでローザは僕を見捨てたりなんかしない。
「何やってるのー?早く来てお皿出してよ!」
「ああ、今行くよ」
 明日こそ言おうと、一人微笑んだ。思えば、プロポーズのようなものだったのかもしれない。しかしローザはこんなことを言った。
「私は悪い人間ね。バニアさんが毎晩呑んだくれてくれればいいのになんて思うわ。だって、そうすれば、自分で料理もできないリュカが毎日うちに来てくれるんだもの」
 リュカは、そう言った彼女の横顔が、たまらなく愛しくなった。そして彼女の言葉は、彼女自身が思っているほど彼にとって舞い上がりそうなほど嬉しい言葉だった。
「今のはそういうこと?」
 頷いたローザに抱きついたリューシュカは、子供のように回った。倒れてしまわないようローザがバランスをとったので、まるでワルツでも踊っているかのようだった。
「君が望むなら毎日来るよ。君がどこにいようとも、毎日君に会いにいく。むしろ、今すぐにでも、一緒に暮らそう。ああ、結婚の儀はいつがいいかな」
 ローザは照れさえしたものの、舞い上がったリューシュカの様子を見て、咳払いをし、限りなく冷静を努めて落ち着きを払って返した。
「あ、あら、全く気の早い人ね。結婚の儀は神父がいないとできないのよ」
「じゃあそんなもの必要ないね。明日父さんに言おう」
「ふふ、やったわ。やっと言えたのよ」

 彼らは恋人達から婚約者達になった。形式的なものだが、彼らにとっては大きな意味を持っていた。

 その村にとってこの日の夜は、特に何も無い夜だった。だが、次の日の朝、状況は一変する。


 ローザ・シャーマン。彼女は、日の出を見ることなく、息を引き取っていた。
 原因は他の村人たちと同じ、感染病だとされた。
 慟哭する少年を、周りの大人達は慰めることもできなかった。

 しばらく経ったある日、村の賢者の元を訪れた彼は、分厚い本を開いていた賢者に言った。
「師よ、僕は、どうしてもローザに会いたいと思っています」
 少しやつれた様子の彼に、賢者は本を閉じると彼に向き直り、ため息をついた。
「シャーマンに会いたいと言うのは、死にたいということか?お前は違うだろうな、生き返らせたいということだろう。だがそれは禁忌。禁忌を犯す者は、私の立場上、村から追放しなければならないよ。――考え直せリューシュカ。私も弟子を追放などしたくはない。君は分からないんだ、外で生きていくのがどれだけ大変なことか」
 賢者の言葉にも、彼は全く動揺することはなかった。むしろ聞いていないくらいだった。
「聞きました。師よ、あなたはあの日、ローザを巫女にしたそうですね」
「ああ。そうだが」
「巫女とは何ですか」
「村の皆を支える希望の女神だよ。頭のいい君だけに言っておくが、なんてことはない、ただ希望の女神とそう思い込ませて皆を励ましただけだ。彼女の件は私としても本当に心が痛む。だがそれとこれとは無関係だ」
「無関係?本当に?師よ、あなたは賢く立派な人間だ。僕らとは見ている世界が違う。……本当に、無関係ですか」
「勿論。もしそうだとしても、なぜ彼女が死ななければならない?君は頭に血が上っているようだ」
 賢者の言葉に、リューシュカは目を細めた。
「……そうですか。そう言うことなら、僕は村から出ます。長きに渡るご指導ありがとうございました。村の人たちにもよろしくお伝えください」
 しっかりとした物言い。光の薄れた瞳で賢者を一瞥すると、リューシュカは背を向け立ち去った。溜息をこぼした賢者も、彼に背を向けた。

 それ以降、その村で彼の姿を見た者はいなかったという。ただ、土葬したローザの墓は何者かによって掘り起こされ、棺の中身は空になっていた。


 それからのお話。少年は恋人を生き返らせる為、森の奥の小屋(杣夫が住んでいた筈なのだが)に引きこもり、一人研究を続けていたという。更に長期間研究をする為に、賢者からこっそり拝借していた不老不死の薬の知識を使って薬を完成させ、自分も不老不死となった。
 彼の研究は続いた。しかし森の外で何が起こっているかなど彼自身理解していなかった。興味が無かった。侵略民たちによって村が焼かれ、同族の血が完全に途絶えようとも、彼にはどうでもいいことになっていた。
 命を呼び戻すことに光明を見いだせなかった青年は、やがて恋人を『造る』ことに集中し始めた。恋人の体が朽ち果てて無くなったあと、実は、死んだ恋人のお腹には子供がおりそれは保存されていたが、その細胞を使ってまで恋人を造ろうとした。しかし実際そんなことは到底不可能。魂を呼び戻すことはおろか、同じ姿の人間を作ることも、子供の細胞では出来る筈などなかった。けれど、そんなことも分からなくなるまで男はおかしくなっていた。過度なストレスと長期間の孤独が、彼を壊し、狂人にした。
 男の知識や力は未熟で、また正気を保っていなかった為、不老不死の技術を応用して造った命も早死したり、人の形を成していなかったりした。造り出した幾つもの不安定な命が、外では「森に出る悪魔」と呼ばれていることにも彼は気付かなかった。

 男はしばらくすると落ち着きを取り戻していった。時に自分の作り出した生き物達と語らうこともあったし、戯れに人造人間を作ることにも成功していた。所謂ホムンクルスである。

「人間は愚かで、神などになろうとも、所詮は自分のことしか考えない自己中心的な生き物だ。滅ぼされても仕方がないくらいに。……クロ、お前はどう思う。僕の話を聞いてもなお、お前は外の世界を知りたがるのか」
 床で丸まって眠る、物言わぬ小さな少年に、男は一人語りかけていた。

 けれど、彼は正気に戻った訳ではなかった。一度壊れてしまったものは、もう二度と戻ることはない。
 静かな狂気は一人の男として形を成していた。

 やがて彼は、自分の大事な人は、記憶を持ったまま転生を繰り返していると知る。彼はただそのことが信じられなかったが、とにかく真偽を探るため、その森を離れることを決めた。同時に、だから自分がいくら頑張っても生き返らせることができなかったのだと、自分自身に言い聞かせ。


 彼がこの森篭りの間に生んだ物は、沢山の失敗作と、僅かな完成品。完成品とは長生きしたホムンクルス達のことだが、失敗作の中でも最も厄介な生き物、それはマザーと彼自身が呼ぶものだった。分裂と再生を延々と繰り返し、この世に憐れな生命を落とし続ける、まさに悪魔のような存在。これは、処分されることなくそのまま遺された。
 恋人の失敗作だったマザーは、やがて子達によって存在意義を与えられ、マザードールとして一つの完成品になったのだ。
……


「あなた達が戦っているのは、人を時たま襲っているのは恐らく、彼の遺したマザーの子達。……私たちの、同胞。或いは私自身」
 ローザは目を伏せてそう言った。
「あの人のマザーを破壊するまで、悪魔たち……ディアモ・イレイアは生まれ続ける。けれどメルデヴィナ教団は討伐に行くことができないでしょうね。何せ何処にあるのか定かでは無い。勿論探してみたけど見つけられなかった。それに破壊の仕方も分からないから。……けれどあの人、エネミ・リラウィッチなら場所は知っているでしょう。世界の悪意、あの人を捕まえることができたら、新しく悪魔が生まれる機会は極端に減る。私の子孫たちは、もう、理不尽な目に遭わなくて済む。あなたにも協力してほしいの」
 ローザの話を静かに聴いていたアンリ。彼の表情を見たミンが口を開いた。
「なんで自分にこんな話をしたんだって思っただろう?」
 アンリはゆっくり頷いた。まるでおとぎ話のようだが、確かに今の状況と比較しても整合性は取れている。しかしそれより、自分にこの情報を伝え本部に報告させるということならまだしも、自分自身に協力を仰ぐとは。そう思っていた。
 一つ瞬きをしたローザは、アンリの手を取った。
「大事な話よ。そんなあの人が今まさにしようとしていること。それは、この世界の終焉を導くことなの」
「世界の終焉……?」
 驚きのあまり開いた口が塞がらない。
「彼は、生み出した私たちの同胞だけの世界を作ろうとしていた。それは同時に、人間達の殲滅を意味する」
 今までよりももっと壮大なスケールの話に、アンリは非現実さを感じた。そして、続いたローザの言葉に目眩を覚えることになる。
「そう。そして、そのトリガーはあなたにかかってるの。あなたは花となりゆく人間だもの」
 花。時々自分に言われた、このよく分からないもの。その正体が、今明かされる。

「世界を終焉に導く、毒を持った花よ」

 信じられない。全く理解ができなかった。







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