7話「美しい街の休日」





 北の大国スヴェーア帝国の首都アレクセイエスク。スヴェーア自体はかなり寒冷な場所に位置するのだが、ここアレクセイエスクは国の中でも一番南に位置し、その厳しい寒さは少しは和らいでいるようだ。そして亡くなった前皇帝の政策により、首都は実際その国以上に明るく発展している。悪く言えば見栄っ張りというべきか。
 煉瓦造りの建物に、綺麗に整備された石畳。グレイに澱んだ曇り空を見上げると街のシンボルであるヴィオラ=フリート時計塔。そして遠くから少し見えただけでも分かる程の豪華絢爛な宮殿。さすが「北で一番綺麗な街」である。しかも綺麗なだけではない。この沢山の人通り。ここは街自体明るいのである。

 グレゴリウス暦で9月。短い夏も終わりに差し掛かり、道行く人々もそれらしい格好をしている。そんな、肌寒くともそれに負けない活気あふれる声や雑踏の中に、一人の少女の声が混じる。
「あれっ……どこ行ったの……?」
 通りにいた手品のような見世物をする男女二人組の大道芸人を見に来てなのか、彼女の周りは余計に人が多い。その人混みからひょこりひょこりと時々背伸びをしては頭を出す。
 彼女の名前はアルモニカ・フリィベル。何やら焦った様子で人混みの中を見渡す。
 というより、実際彼女は焦っていた。一緒にいた少年の姿が見当たらないからだ。
 確かさっきまでいたのに。そう思うけれど、見渡しても見知らぬ人々がいるばかり。教団のあの黒と白の制服を着ていたなら見つかりやすかったかもしれないが、今は二人共私服である。彼女は街の中に立ち尽くす。
「どうしよう。アンリ迷子になっちゃった……」
 迷子になったのは果たしてどちらなのか。活気はあるけれど冷たいこの土地で、アルモニカは一人、不安になりながらもあの少年の姿を探す。

             ◆◇◆◇◆

 時は少し遡る。
 アレクセイエスクに無事着いた遠征隊。途中悪魔に襲われるというハプニングもあったが、電車が止まることのなかったことで予定より早く着いたようだ。
 任務遂行に向けての現地のエクソシスト隊である二番隊との合流などにもまだ時間があり、副隊長のサクヤはそれぞれに「この地域の調査を名目として好きにして来い」と言った。つまりは遊んで来いである。この副隊長はいつも何かと妙な文句で隊員を休ませたがる。それが不器用な彼女なりの愛なのだろう。彼らは分かっていた。
「地域の調査ねぇ……」
「折角だし色々回ろうぜ!アレクセイエスクと言えば――うわっ」
「アーサー、お前はこっちだ」
 気を利かせて連れ出そうとしたアーサーだが、早速、最後まで発言する前に隣のサクヤに引き摺られていくように連行される。彼女の髪に首を絞められながら、文字通り引き摺られていくアーサー。
「ただでさえ不安定なお前の武器の能力だ。いつもは凍らせると怒られるがここならやり放題だぞ。少し行った所に雪原がある。そこで私が雪を溶かせばお前も凍らせ放題だし。なっ」
「なっ……すか……うぃっす」
 小さくなっていく二人を見ながら二人は顔を見合わせる。
「"調査"ですって、アルさん」
「そうね。行っちゃおっか。二人は特訓に行くようだし、レイちゃんとの合流もまだみたいだし、隊長はいないし」

 こうして、二人で街に出掛けた筈だったのだが……
「なに早速はぐれてるのよもう!」
 不安、とも先程言ったが最早怒り出したアルモニカ。
 そんな彼女は"調査"ではなく、一日アンリを探すこととなる。

             ◆◇◆◇◆

 必死に走って来たが、ついに呼吸器にも限界が来て立ち止まる。気付くとそこは完全に街の外れだった。
「はあ。……困ったな」
 アンリは溜め息をついた。

 人混みはただの人混みではない。そこに紛れて悪さをする者だっている。
 先程、アンリがアルモニカと歩いていた時、不意に細く暗い路地から手が伸びて彼は路地裏に引きずり込まれたのだ。
 建物側に自分が歩いていたからかアルモニカが被害を受けることは無かったが、アンリは、今思い返してみて壁側を歩いていて良かったと思える程の余裕は持ち合わせていた。
 アンリを捕えたのは恐らく奴隷商人か、もしくはそのような輩に売ろうと企んでいるような極貧の者。華やかなで綺麗な街アレクセイエスク。しかしそのすぐ裏には貧しく暗い世界があったのだ。
 あの時、一瞬は捕まったが、慣れた様子でするりとその手を抜けるとすぐに逃げた。ああいうのに構って反撃報復などしていても、ろくなことにならないのを彼は経験的に知っていた。

――動ける人間なら誰でもいいってことですか。アルさんが狙われなくて本当に良かった……
 事実、彼が狙われたのはその色素の薄い金髪と珍しい金に似た緑の瞳のせいだろう。緑の瞳なんて物はこの世界には少ない。狙われやすいのも当然である。
 しかし何度同じような目に遭っても、彼は自分の外見の希少性についてはあまり理解していないようだ。それは彼の先生と呼ぶ人物がそのことについて言及しなかったからである。一般常識において、先生が教えなかったことの中でアンリが知っていることは少ない。そしてアンリ自身はそのことを意識していなかった。

 息が完全に整うと、彼は再度よく辺りを確認する。
 路地裏の中を裏街に入らないように駆け抜けて来てここまで来たが、全く別の通りに出たようである。随分と離れてしまった。中心部程の賑やかさ、明るさは無いがそこまでは寂れていないようだ。それでも人通りが疎らで極端に人の数が少ない。
 あの時計塔が見えるだろうと空を見上げるも、建物以外に見えた物は高い壁だった。近くに辺りを囲う壁があるのだ。
 他に何か見えないものかと少し後ずさると誰かにぶつかってしまった。きゃっ、と小さく声が上がる。
 振り返ると、小柄な人間が立っており、その持っていた花の束を落としてしまっていた。
 黒いフードを深く被り、目元を隠している。その襟から少し覗く髪は白い。小柄で背中が少し丸いので、一瞬年配の老婆か何かだと思ったが違うようだ。声、そして伸ばした手や肌からは若さが感じられる。
「ごめんなさい、花が……」
 相手は無言で花を拾っていく。アンリが膝を折り、花を拾おうとした時、少し手が当たる。何でもないようなことなので、彼は気にせず最後の花を拾い上げ、彼女に手渡そうとした。その時、彼女の手が止まっていることに気付いた。
「はい。ごめんなさい……傷など付いてなければいいんですが……」
 顔が見えないので何しろ表情が読めないのだが、彼女はぼんやりと口を開けたまま固まっていた。彼女はアンリが申し訳なさそうに差し出した花を見つめ、呆然としていたが、ハッと気付いたように彼から花を乱雑に掴み上げる。そして逃げるようにその場を立ち去ってしまった。
 一瞬の出来事にアンリは少し驚いたものの、しばらく経つと特に気にせず再び現状打開について考え始める。彼は中々動じないのだ。

             ◆◇◆◇◆

――何なのですの?あれは一体……

 フードの少女は誰もいない墓場まで来るとその外套を脱ぎ捨てる。
 簡素な黒いドレス、透けるような白い肌や白銀の髪、そして金の瞳が顕になった。その尖った耳、頭に付いた装飾品に大きな目玉が付いているのを見ると、人間ですらないように思われる。
 そう、彼女は悪魔と呼ばれる存在。金色の瞳と白い髪は悪魔の代表的な特徴である。そんな悪魔が一体ここで何をしているのだというのだ。
「触れても大丈夫ですの……?変わった人間」
 悪魔に触れた人間は拒否反応を起こす。彼女は人型をしているがその特性に変わりはない。人間に触れてしまったら、その人間は何かしらの形で負荷を負う。……それなのに。
「分かりませんわ。あんなの初めてですの」
 初めてのことで動揺を隠せない。けれど、その分あの少年が気になってしまう。
 特に目に焼き付いている物。自分のギラつく金の様に気味の悪くない、印象的な綺麗なペリドット。さらさらと靡いた髪。微笑んではいるものの、どこか固い表情。触れた手は、冷たい自分の手がよく分かるくらい温かかった。
 彼女は無意識に花を握り締めていたのに気が付いて、慌てて広げては頭を振る。

 悪魔の少女は墓地の端まで歩いていく。外れの小さな黒く四角い石が沢山転がっている一角までやって来た。そこにぱさりと花束を置く。
 そこは彼女の兄弟達の墓。悪魔は死体は残らない。すべて灰になってしまう。けれど、魂はこの何でもない石にあるような気がしてならないのである。
 わざわざ無数の仲間の死を弔う者はいないが、彼女は時々花を供えに来る。まるで人間のように。
 冷たい風がさわりと彼女の頬を撫でる。
「混沌とした世界だったけれど。……そちらはどうですの?」

             ◆◇◆◇◆

 何となくで進んで正解だったことはあまり無い。アンリはそう思い、早々に人に道を聞くことにした。
 と言っても元々人がいないので、誰かいないかと辺りを見回す。
「ねえ君どうしたの?迷子?」
 唐突に上から声が降ってきた。驚いて振り返りそちらに顔を上げれば、建物の二階の窓枠に腰掛けてこちらを見下ろしている少女がいた。先程までいなかった筈だが。あのフードの少女もこの少女にしても、全く気配を感じない。
「こんな下等区にいるなんて、迷子なんでしょー。ボク知ってるよ!なんなら案内してあげよっか?」
 あながち間違っていないが、勝手にそう決めつけた少女。彼女は近くの外付けの階段の手すりから器用に滑り降りると、アンリの前に来てにこやかに右手を差し出す。
「ボク、ローランって言うんだ。よろしくね」
 帽子を被り短いズボンを履いてまるで少年のような出で立ちだ。一人称が「ボク」であるが、彼女は確かに男ではなかった。白い髪は後ろで纏め、長く垂らした横の髪の長さから見るにかなり長いであろうその纏めた髪を帽子の中に隠しているようだ。白い髪に曇った空を映したのような目の色。ここより少し東にあるテトロライア王国中心に多く分布しているヴァルド人だ。恐らくだがあのフードの少女もそうだったのだろう。
 人懐っこい笑顔のローランに、アンリは少し引きながらも思わず返す。
「僕、は、アンリです」
「アンリ君って言うんだね!アンリ君、ボクに捕まったのも何かの縁だし、運が悪いと思ってちょっと付き合ってもらうよ」
「へっ……?あっ、ちょっと!」
 ローランはアンリの手を引きどんどんと歩いていく。有無を言わさぬ強引な彼女の態度に押されつつも、アンリは勢いに負かされてそのまま腕を引かれていった。


「ねっどうどう?楽しいでしょっ?」
「ま、まあ……そうですね」
 両手に出店で買った食べ物を持ち楽しそうに笑うローランと、少しぐったりとして疲れた様子を見せるアンリ。
 あれから随分と振り回されたようにも思える。狭く入り組んだ路地を人一人会わないように巧妙に通り抜け、一等区と呼ばれるあのアンリ達が元々いた綺麗な中心部まで戻ってくると、彼女は半ば強引にアンリを連れ回した。
 街を歩いて目に付いた気になる物に一々反応を示すようで、それは傍から見ても異質な物だったりそうでも無かったり色々であった。彼女は何に対しても顔をきらきらさせる。

「そう言えばアンリ君、君ってどこから来たの?」
「どこからとは出身地ですか?」
「そうだよ。変わった目の色してるからちょっと気になってね」
 ローランは先程買ったほかほかのクレープを口いっぱいに頬張りながら言う。アンリはそうですね、と困ったように笑う。
「何処なんでしょうね……?」
「おや分からないのかい?君ってば変わってるねえ」
 変な子に変わってるって言われた。そうぼそりと呟いた声は届いていないよう。
 彼女はアンリに持たせていた袋の中からチュロスを取り出し、一つはアンリにどうぞと言わんばかりに押し付けると、自らも齧る。ごーんごーんと低く鳴る鐘の音が聞こえてきた。
「ああそうそう。次鐘が鳴ったらボク、さよならしなくちゃいけないんだ。シュチェルヒが探しに来るからね」
「シュチェルヒ?」
「えっまあそれは何でもいいじゃない。……それはそうとアンリ君は意外に正直にボクに付き合ってくれたけど、君はこんなことしてていいのかい?」
「えっあっ、そうなんですよ!」
「およ?」
 忘れていたわけではないが、自分はアルモニカを図らずしも置き去りにしてしまっている。ローランとは今日出会ったばかりの仲であるのに、こんな重大なことを忘れさせて彼女に付き合って荷物持ちなどをしているとはどういう事だ。しかし今までの経験から言って、それは彼女特有の体質だと思うのだが。
 アンリは立ち上がる。
「僕を探している人がいるんです。多分帰らずに僕のことを探してくれてます」
「その探してる人を探さなくちゃいけないんだね?ボク手伝ってあげるよ」
「ほんとですか?ありがとうございます」
「うんうん。だって今日はボクが連れ回しちゃったんだからね」
 そう言ってローランは手に持っていた残りのチュロスを口に押し込むと、立ち上がってにやりと笑う。
「人を探すのにぴったりな良い場所があるんだ」


 彼女が連れて来たのはヴィオラ=フリート時計塔の上だった。本来人が入る場所ではないのだが、どうやって知ったのか、彼女は塔への入り方を知っており、路地裏を抜けた時のように巧妙に中を上がってここまで来た。
 そんなに大きくない窓のような、塔の壁に空いた穴から顔を覗かせる。注意して塔を見上げる者もそんなにいないのか、それとも見えないのか誰も気に留めない。
「よく兄さんが連れて来てくれたんだ。よく見えるでしょ」
 確かに。ここなら街が一望できる。勿論、壁のこちら側だけであるが。
 風に白っぽい髪を揺らしたローランが、何故か少し寂しそうに見えたような気がする。それをはっきりと感じ取る前に、偶然アンリの目がアルモニカらしき人物の姿を捉えた。
「あれはアルさん……?」
 目を細める。おや目がいいんだねとローランは言ったが、きょろきょろと探す素振りを見せるローランに特徴を伝えると、暫くして、あそこにいる子だねと返してきた。実際彼女の方が目が良いようだ。
「行っておいでよ」
「はい。ありがとうございます。……ローランさんにここまで連れてきてもらえなければ、僕は迷ったままでした」
「ふうん?中々都合がいいねー。君、そんなので大丈夫?」
「えっ?」
「ボクが悪い人だったらどうするのさ」
「注意してる方ですよ。……ローランさんは何となく、そんな風な感じはしなくて」
「それは嬉しいな」
 当たり障りのない会話を少しして、じゃあ、とアンリが言うと、ローランはにっこりと笑いかける。
「またねアンリ君。君とはまた会える気がするんだ」
「はい。……そうですね」
 アンリも笑い、そのまま手を掛けて飛び降りた。
 予想外の行動に、彼女が慌てて下を覗くと、アンリは何か長い紐のような物を塔の外壁に引っ掛け、それに右手で掴まり器用に降りているようだ。
「アンリ君ってやっぱり変わってるね」
 そうくすりと笑うと、背を向ける。彼女も元の場所に帰らないといけない。
 今日一日のことを思い出しながら、呟く。
「次は本当の笑顔を見せてね」

             ◆◇◆◇◆

 何か気配がしてはっと顔を上げる。すると丁度、アンリが空から降ってきた。
「アルさん。お待たせしました!」
 なぜ降ってきたのかは疑問だが、恐らく魔魂武器を使ったのだろう。周りがざわつくのを感じるが、それどころではない。
「もおお!お待たせしましたじゃないわよ何してたの馬鹿!心配したんだからね!」
 アルモニカは泣きそう、というか目に涙を溜めていた。悪いことをしたと思った。大体が不可抗力なのだが。
「はぐれてから迷ってしまって……アルさん大丈夫でしたか」
 奴隷商人のことは言わないでおこう。彼女にこれ以上の心配は掛けられない。一応ローランのことも。
 うっうっと泣き出しそうになりながらも彼女なりに強がる。
「私は別に。……でも言葉の通じない土地だし、不安だったし……」
 ぼそぼそと俯いて零すアルモニカ。やはり独りで不安だったのだ。
 言葉の壁。そう言えばそうだ。だがアンリはあまりそれを感じていなかった。今アルモニカに言われて初めて意識した。何故だろう。
「通信器鳴らしたんだけど……出なかったけど大丈夫だったの?」
「あっ……制服と一緒に宿に置いてきてしまってました」
「もう!余計に心配したじゃない!」
 顔を背け目に溜めた涙をこっそり拭って、アルモニカは、でも無事でよかったと笑う。

 結局今日は何もできなかったなあ。そう寂しそうに呟くアルモニカを見て、アンリは一つ提案をする。
「ねえアルさん。何か食べましたか?お腹空きません?」
 アルモニカは暫しきょとんとしていたが、やがて吹き出す。
「もう、アンリって食べることばっかりしてる気がする」
「そんなこと無いですよ!……まあ食べる方だとは思うんですが……」
 アルモニカはほらねと笑い、出店の方へと歩き出す。

 訓練に行ったアーサーや副隊長の分も買ってあげようというアルモニカの提案により、山のように買った二人はその後、サクヤに散財すぎると怒られることとなる。

             ◆◇◆◇◆

「姫様、姫様!」
「何ですかシュチェルヒ。そんなに騒いで何かあったのですか」
 スヴェーアの帝国ホテル。その最上階は、スヴェーアと国交を結んでいるテトロライア王国の一部外交関係者がほぼ貸切状態であった。テトロライアが条約の更新の会議を間近に控えている為だろう。
 その一室に、椅子にゆったりと腰掛け本を読む女性。雰囲気は大人なのだが、よく見ると顔立ちから少し幼い印象を受ける。
 彼女はテトロライア第一王女、フローレンス・ヴィナ・テトロライアである。国に残った王から、外相と共に全権を任されている。
「ああ、いらっしゃったのですね。良かった」
「勿論。私はずっとここにいますよ。それよりどうしたのですか」
 ああ、そう取り直し、シュチェルヒと呼ばれた老齢な男性は彼女に告げる。
「全くの偶然なのですが、メルデヴィナ教団の部隊が今この街にいるそうで。衝突を避ける為に、姫様にはなるべく出歩かないようにして頂きたいと。姫様はよく一人でお出掛けになってしまうと王宮騎士隊長からも耳にしておりましたので、一応進言させて頂きました」
「……分かりました。気をつけておきます」
 では、と退出するシュチェルヒ。再び一人になった王女は足音に耳を澄ませ、彼が充分に離れたのを確認すると本を閉じて机の上に置いた。
「教団との関係は悪いけれど、きっとそれは隣人の定めね」
 はあと息をつき、彼女は天井を見上げる。
 変わった子だったなあ、と、今日出逢った少年の顔を思い出す。少々強引に連れ回してしまったが、彼を見た時、直感的に知り合いになるような気がしたのだ。また会えるような気がしたのだ。傍若無人なあの自分にとって、そしてこの自分にとって、今日は楽しい思い出の一つになった。普段外に出られることが少ないのである。
 そして、エクソシスト。
 彼女は思い出す。
 彼はエクソシストだろう。それにいつも思っていた。周りの一般はエクソシストのことを恐れ、または畏れているが、何ら変わらない、ただの普通の子供じゃないか。何が違うというのだ。
 夕暮れ、自分の国のそれよりも赤い夕日が沈む街を窓越しに見ながら、彼女は目を閉じる。







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