48話「鬨の声」
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 闇のダンスホール。影に囚われた男は孤独な深い森の中で、じわじわと迫る死を待つだけであった筈なのに。

「君がこれ以上動けば、向こうの俺の仲間に、君は後ろから心臓を撃たれる。君が諦めて彼を大人しく引き渡せば、君を許してあげよう」

 圧倒的な実力差。完全なる捕食者にとっては、弱者の足掻きなど取るに足らない。

 リィンリィンの本音を聞き届けた彼は、組み伏せていたアンリの耳に手を掛けた。
「触るな!」
 悲鳴にも似た咆哮と共に、リィンリィンが無数の影の刃をジュディの背に突き立てた直後、無慈悲な銃声が響く。
 呆気にとられたリィンリィンの横をすり抜けていき、撃ち抜かれたのはジュディの身体だった。彼は驚きに目を見開き、固まっていた。
「……は?」
 背後の仲間がジュディを裏切りこちらに加担しようとしていたのだと悟ると、リィンリィンは瞬時にダンスホールを解除した。そして何が起こったのか全く理解できていないジュディから手早くアンリを奪取する。咳き込むも、アンリは自分で立てるほどには回復していた。
「ああ、よかった……」
 その様子を見たリィンリィンは、ふっと体の力が抜けたのか座り込む。どうやら、先ほどのダンスホールは展開して維持するだけでも体力の消費が激しいらしい。

 一方のジュディはその場から動けなかった。後ろから刃に貫かれ、後ろに倒れ込むこともない。胸から溢れた鮮血が地面を赤く濡らす。何が起こったのか判断しきれていない様子のジュディは、口を開けたまま目を見開いた。
「なん、で、何でだよおクロ!嘘だ!俺のクロはそんなことしない!」
 だが暗闇から答えは返ってこない。代わりに銃声はその答えのように、二発、三発と響き、弾丸がジュディの体に撃ち込まれる。腕一本失くすことさえ歯牙にも掛けなかったような怪物の男も、急所を正確に何度も狙われればひとたまりもない。
「――――ッ!」
 絶命の刹那に、彼は絶妙な角度の青の壁を張り、地に伏す。最後の弾丸は青い壁で跳ね返され、彼の狙い通りアンリの元へと飛んでいく。ジュディが壁を張った時点で彼が何をしようとしていたか気付いたリィンリィンは、最後の力を振り絞り、立ち上がると、アンリを力一杯突き飛ばした。
「っ……!」
 たった一発の銀の弾丸が、彼女を赤く染め上げる。
「リィンリィンさん!」
 駆け寄ったアンリは、地に横たわった体を抱き寄せる。満身創痍の身体に受けた銃弾は、急所は避けているように見えた。だがその顔は青く、生気がない。やはり、無理に大技を使ったせいか。
「何、してるんですか……あなたは……」
「最後くらい、正直に、言いますわ……」
「血が……リィンリィンさんもう、やめてください、喋るの、」
 リィンリィンは、アンリの言うことを聞いていない。
「嘘をついては、いませんの……。リィンリィンは、自分の為に、無理を通して、あなたといたんですの」
 アンリは首を横に振る。
「あなたを守ることが、あなたの傍にいることが、リィンリィンの願いですわ。それなのに、」
 リィンリィンはふっと仄かに笑った。
「夢みたいですわ……あなたのこの瞳が、リィンリィンを見ている。リィンリィンは、あなたの腕の中にいる。そして、あなたに、名を呼んでもらっている。こんなにも暖かい。ああ、」
 ゆっくりと白い手を伸ばし、他人の血で汚れた愛しい頬を撫でる。金の瞳が優しく、弓なりになる。
「しあわせ」
 力無く滑り落ちる手。その言葉が、アンリの聞いた彼女の最後の言葉だった。
「……リィンリィンさん?リィンリィンさん!」
 銃弾が当たったのは右肩あたり。血が出ているのは心臓が動いている証拠。首筋に手を当てると、薄弱だが確かに脈は拍動している。アンリはその傷口を手で必死に塞いだ。溢れた血が服を濡らし、それは昇華し白い霧となっていく。
「やめておけ」
 その時、聞き覚えのある男の声が背後で聞こえた。はっとアンリが振り向くと、そこには知らない少女。震える腕で大きな杖を構え、アンリの方を指していた。その斜め後ろに立っていたのは、真っ黒な服の男。おおよそ二年振りに見た、アンリの上司クロウ・ベルガモットの顔であった。
 ベルガモットは杖の少女に語りかけていたようだった。その少女は、白い髪に金の瞳を持った、俗に言う悪魔であった。彼女は、充血した瞳で、唸るような声でアンリを睨んでいた。
「う、、お、まえ……リィンリィンが、お前の、せい……で……」
「ずっと見ていたんだろう。今するべきは、こいつを殺すことではないだろう」
「う、うう……」
 震える杖は、攻撃性を持ったものには見えない。ベルガモットに諭され、少女は座り込む。悔しそうに握った手は土を掻き、大きな金の瞳には涙を溜めていた。
「リィンリィンは、お前のことが好きだった。お前のこと、ずっと、ずっと!……リィンリィンのことを思って、僕は止めなかったけど、こんなのあんまりだよ!酷いよ……」
「死んでない」
「……え」
 アンリは繰り返す。
「まだ死んでない」
「リィンリィン!」
 血相を変えて少女はリィンリィンに駆け寄った。アンリがしようとしていることを理解すると、彼女は杖を振る。すると、即座に出血が止まった。固定の能力、彼女は傷口の血液を固定させたのだ。
「治せるんですか」
 少女は無言で頷く。
「でも、時間がかかる」
 そう言って彼女の青い額を撫でた。
「リィンリィンのこと、もうお前の元にいさせられない。リィンリィンは、友達だから。これ以上、苦しませられない」
「リィンリィンさんは、友人です。大切な、仲間です」
 はっとアンリの顔を見た少女は、暫くその緑の目を見つめ、ゆっくり頷いた。
「僕はルニ。今までリィンリィンをありがとう」
 そう言い、少女……ルニはにっこり笑った。



 無残な姿になった片割れを見下ろしていたベルガモットは、彼の最期の言葉を思い出していた。

――嘘だ!俺のクロはそんなことしない!

 ベルガモットはふっと笑う。
「そういうところ、本当にあの人そっくりだ」
 最期まで、自分が正しいと思い続け、信じて疑わなかった。喋らないベルガモットの言葉を自分勝手に解釈していた彼は、最後までベルガモットが彼のことをどう思っていたのか知らずに人生を終えてしまったのだ。それは、ベルガモットにとっては呆れ果てる結果であった。
 けれど、片割れを失うことは、彼にとって心を引き裂かれるようだった。おかしな話、憎くて仕方なかった顔が冷たくなりもう動かないことに、無性な悲しさを覚えた。

 彼が静かに涙を流していたことに、アンリは気付かないふりをした。


「こんなところで会うなんて奇遇だな、アンリ・クリューゼル」
「……お久し振りですベルガモット隊長」
 こちらをふと向いた彼は、首を横に振った。口を動かさなくても声が聞こえるのは、相変わらずである。
「もう隊長ではない。サクヤに失礼だろう」
 アンリはゆっくり頷いた。
「君も上手く死んだことにしておけば、このように追いかけ回されることもなかったのにな」
 そう悪戯っぽく笑った姿は、彼の本当の性格を表しているようだった。
「彼女のこと、すまないな。もう少しましな結果も用意できたかもしれないのに」
 アンリは首を振る。
「いいえ、ベルガモットさんが謝ることではない。――助かりそうで良かったです」
 少し離れた場所で、リィンリィンの側に寄り添う少女を見ていた。
「彼はルニという、彼女のことをよく理解した者だ。君を探していた時に偶然見つけてから、彼がずっと君達を追いかけていたと気付いた。おおよそ四つ目の遺跡からだろう」
 この時アンリは、ベルガモットがジュディという男と常に共にいながら別に情報収集をしていたことを知った。
「今すぐにでも私は本部へと戻らなければならない。君に、言付けをしてから」
「言付け……?」
 ベルガモットは黒の瓶を差し出す。
「私の雇い主と協力している人間と、早急に会ってほしい。エネミに捕まって人間として殺されるよりはましだろう」
 黒の瓶を握らせると、ベルガモットはその人物の名を口にした。



◆◇◆◇◆


【戦場】

 ベルガモットが生きていた。

 男が不死鳥のように舞い戻った場所は、これから戦場となる場所であった。
 メルデヴィナ教団は現在、エクソシスト主体の勢力と教会主体の勢力――ガーディに二分されている。実質皆殺しを宣言したガーディに対し、エクソシスト達はその勝負を受けるより他なかった。殲滅を目的とするなら暗殺など幾らでも手段はあっただろうに、このような方法を提示してきたのには何か理由があるのだろうか。
 残された武器使い以外の戦力……一般隊に所属している隊員達は、ガーディに協力する派閥、武器使いに協力する派閥、中立を保ち戦闘には加入しない意思を示した派閥などがあった。
 無論、大半の事務員達は避難してしまった。それでも一部はベースキャンプの運営などに尽力する姿勢を見せてくれた。

 ガーディが指定してきたのは、大陸の西端、文明の及ばない暗黒地帯であるエルカリア半島の南の荒野であった。鉄道も走れない、かつ長年戦場に選ばれやすい地形であるが故、そこは荒地になっていた。過去に遡れば古代王朝同士の戦争まで挙げられるが、現代においては主に魔女との抗争である。長年積み上げられた兵器や拠点の瓦礫が所々に積もり、最早全く平坦とも言えない場所である。


 そこにはまだ、何も無かった。吹き荒れる砂を含んだ風の中、ベルガモットは瓦礫を避けながら、ざらついた土を踏みしめ歩く。その様子を、遠隔透視で見ていた者がいた。
「リーダー!なんか来たよ!どうする?締めちゃう?」
 無邪気に笑う少年は、マントを広げて後ろに鎮座している男に問う。
「ほう、来たか」
 椅子に座った男は、軍服のような赤い教団の制服の上にコートを着込み、軍帽を目深に被っていた。その軍帽を僅かにずらして少年のマントに映った映像、その中心に映る黒い男を見つめ、彼はにやりと笑う。
「いや、少しお話しでもしようか」
 立ち上がりバサリとコートをはためかせると、ブーツを鳴らしながら、彼は階段を登って行った。彼の後ろを付いていく、赤い服の者達。


 鉛色の曇り空。積み上がった瓦礫の影、その頭頂に人影があるのをベルガモットは発見した。
「死者が舞い戻るとは、大層愉快なファンタジーだね。僕は夢でも見ているのかな」
 フランクな笑顔を浮かべるこの男のことをベルガモットは知っている。よく知っている。
「と言うのは嘘さ。僕は君が生きているんじゃないかと思っていて調べていたら、まさか魔女の男と行動していたなんて思いもしなかったんだけどね。かの亡霊と言い、君と言い、君の部下と言い、エクソシストは皆魔女になってしまうのかい?」
 毒気など全く感じられない笑顔で皮肉を零す男。
「アラン・レイクレビン。権力に目が眩んだ軍人め」
「やだなあ。これでも僕は聖職者さ。権力に目が眩んだ軍人とは君たちのことだろうエクソシスト。大層な武力を持ち今迄散々のさばって来たようだが、もうその時代に終止符を打たねばならない。悪しき慣習を、僕たちが終わらせなければならないんだよ。世界は君たちを、エクソシストを恐れている。事実上減りつつある悪魔より、ね」
「そうやって我々を悪とするのならそうすれば良い」
 ベルガモットは、大きく息を吸う。
「お前達は本当にこれが正しいと信じているのか。教団とは一体どちらのことだ。いつまでも悪魔を虐げ上でのさばっていたいだけの聖職者か?それとも正義を願う軍人か?我々が生まれた真の意味を思い出せ!今問え!本当の正義とは何だ!」
 高らかに響く声に呼応するように、レイクレビンも叫ぶ。
「罪人が!そのような戯言を言いにここまで来たのか!罪人――魔女クロウ・ベルガモットを捕らえよ!許してはおけない!」
 勢いよく伸ばした手、同時に彼の背後から複数の人影が姿を現す。
「やらせてリーダー!」
「お前が?」
 そのうちの一人、無邪気に笑った少年がマントを翻しレイクレビンの前に出る。隣にいた金髪の少女……ミクスは不満そうな顔をしたが、レイクレビンは首を縦に振った。
「構わない」
「行くよ!アグニ!」
 飛び出したのは火炎瓶と手榴弾に見えた。それらは真っ逆さまにベルガモットに降り注ぐ。刹那、それは着弾する前に上空で爆発を起こしたかに見えた。
 燃え盛る激しい炎。だがマントの少年の表情は曇る。赤い炎は旋風を巻き起こし、その隙間からは人影が見えた。ベルガモットの前に双剣を構えて立つその姿はまさしく三番隊の隊長、サクヤ・ロヴェルソンであった。彼女が破壊した爆弾の衝撃や炎は、彼女自身の炎が吸収したのだ。温度が上がったそれは僅かに青を纏う。
「僕のアグニが!」
 剣を構え、巻き上がる焔の中でサクヤは叫ぶ。
「火でも水でも何でも来い。雑魚の相手は私だ!」
 そのまま青い炎をレイクレビン達めがけて解き放つ。その直後、人影の一人が動く。腰に携えた鞘から解き放たれた清流を纏った刃が、青い炎を一刀両断する。
「やるじゃないの子猫ちゃん!一層可愛くなったわね!」
 刮目し声を上げたのは黒髪の女性、アンネゲルト・ミカミ。その時大きな鐘の音がした。見上げると、赤と黒の制服に身を包み、頭に紙袋のようなものを被った人物が、塔の上で鐘を叩いていた。レイクレビンは声を張り上げる。
「聞こえるか同士よ!今こそ脅威を殲滅するのだ!この御仁がやってくるまでに!」
 鬨の声が響き、ミカミやミクスは瓦礫の上から飛び降り駆け出した。その様子を見たレイクレビンはその場を離れる。その他に、彼らの背後に無数の兵がいるように見えた。
「和解はできないか……」
 ベルガモットは苦い顔でバサリと黒いコートを翻すと、背負った彼の武器、ゲオルグ=サイデリケを構える。
「ボクたちもいるのです」
 背後から舞い降りた鉱石の天使は微笑む。彼女の背後には、南と北のエクソシスト達と一般隊。どこか焦げ臭いサクヤがベルガモットに語りかける。
「雑魚は私にお任せを。あなたはあいつを狙ってください。ね、隊長」
「隊長はお前だろう」
 ベルガモットがそう言った瞬間、サクヤは懐から取り出した赤い腕章を彼に押し付けた。驚いた様子の彼に、彼女は左腕の腕章のアスタリスクを見せつけた。
「それは預かっていただけです。わざわざ副隊長章を探してきて付けてきたんですからね。……おかえり、隊長」
「……ただいま」
 短い会話だけ済ませると、彼女は走り去る。ベルガモットは腕章を嵌めると、去ったレイクレビンを追いかけた。

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◆◇◆◇◆


【中華燐朝 ザイトン研究所】

 ザイトンは穏やかな港町だ。各国から船が多く来航し、物流は活発な方であろう。その地下に異常に発達した科学を扱う研究者たちが闊歩しているなど、港で働き暮らす者の九分九厘は知る由もないであろう。

「随分と簡単に戦争を始めてくれたね。こんな面子だけの戦争をしている裏で世界が滅ぶかもしれないだなんて、面白すぎて笑えないよね。っ、アハハ」
 灰色の床の広い研究室で、この会社の社長であるシリス・レヴァーニャはせせら笑った。彼の目の前には沢山のモニターが並んでおり、そこには多種多様な映像が映し出されていた。
「それにしてもいい考えをありがとう。目の前の戦いで精一杯で、こちらに介入してこないのは本当に楽だからね」
 彼が語り掛けたのは、彼の隣に立った白いローブの男であった。鼻先まで隠れそうなほど深くフードを被っていて、素性は分からない。
「感謝されるほどでもない。この考えは、俺じゃなくお前の嫌いなエネミ・リラウィッチが考えたものだ。大きなことが起きている時、裏で何が起こっているかなんて気付かない。だから君たちは研究を続けて来られたんじゃないか」
「うわ出たよエネミさん」
 シリスは露骨に嫌な顔をする。
「あの人まだ生きてるの?」
「ああ。だが奴を殺そうと躍起になっている巫女がいるようだからな。矢も手に入れたようだし、そろそろじゃないか」
「あの人は本当に嫌い。僕の計画の中で最重要だった物を種とかいうふざけたものにしちゃったんだから。……僕はねえ、世界が滅ばないように種は芽が出る前に摘んでおこうかと思っていたんだけど、そうしてたら本当に危なかった。これが永遠に完成しなくなるんだものー」
 そう言い目の前のモニターの中でも一番大きなモニターの蒼い画面を眺めていた。
「あなたはこんなのどうでもいいんでしょ。ほんと、何考えてるのか全然分からないよねー」
 開いているか怪しい糸目でじとりと見ると、白ローブはそっぽを向いた。
「どうでもいいなんてことは無い。ただ今の俺にとっては取るに足らないことだ。それより、お前にあなたなんて呼ばれる方が気味が悪いね」
「ふーん。僕なりに敬意を表したつもりだったんだけどー?じゃあ君って呼ぼうかな、オウミ。……絶対神を名乗るなんて君は傲慢な男だ」
「なんとでも言うがいい」
 シリスの意地悪な笑みが深くなる。
「へえ?それともなに?こう呼んだほうがいい?――かつてメルデヴィナ教団の団長を務め上げたが裏切られ、後に別の姿で再び団長となり、教え子にその身を殺させた、悪の根源サズ・ホリー」
「悪ふざけが過ぎるんじゃないか?」
「それは君の方だよ。めちゃくちゃするじゃないか。僕には考えもつかないね。そもそもどうしたらそんなことができるの?倫理的な話じゃなくて物理的な話。体幾つある訳?意識の共有は?」
「嫌味なら好きなだけ言うがいい。そうさせたのは君だろう。教団の内紛が必要となったのだから」
「いやいや僕は物理的な……」
 そう言いかけて、シリスの頭にふと培養層の子供たちが浮かぶ。
「ああ、そうか。ミクス実験と同じなんだね」
「あれはいい実験だった。少しデータを拝借させてもらったよ」
「あなたの為にした訳じゃないんだけどね盗人め。後で使用料貰うからー」
「なんとでも言え」
 軽口を叩き合う仲であるようだが、言っていることは少々不穏すぎるようだ。

「さて、俺はかつての教え子が死ぬところでも見に行こうかな」
「どの時代の?」
「さあな」
 背中を向けたまま手を振って出ていく男を見ていたシリスだが、ふと懐の機械が鳴っているのに気付く。返事をし部下からの用件を聞くと、彼はにたりと笑った。




 客人をモニターの部屋に通す。彼とは大陸の西端のカナソーニャ・ロヴァイ研究所で会ったきりである。
「へえ、君が探し物か……」
 わざとらしく考え込んだポーズを取ったシリスであったが、ぱっと両手を広げて微笑んだ。
「ねえ、変なこと聞くけど、アリアレコードって知ってる?」
「アリア、レコード……」
「そう」
 夢の中の朧気な記憶を辿るように、ゆっくりと反芻していた。
「それは、僕の中にある……?」

 探し求めた末の答えは、案外あっさりと見つかってしまった。

「……おかえり。その場所こそが、君が帰るべき場所だよ」


(亡霊編 終)







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