4話「3番隊とアンリ」





 青い部屋。本棚が堆く積まれた中に、ぽつんと一つの椅子がある。そこに腰掛けるは髪も目も真っ白な女性、エメラリーンだ。そしていつも同じようなセリフを言う。
「いらっしゃい。私の愛するこのアリア=レコードへ」
 最初、青い世界にいた時は死んだのかと思ったが、エメラリーンを見て確信する。またこの夢かと。そしてよく周りを見るといつものように、自分も彼女の向かいの椅子に座っている。
 アンリは五年前に記憶喪失になっている。そしてその記憶が始まった時から、彼は決まってこの夢を見る。さして気にもしていなかったので誰にも言っていない。記憶を無くした彼に生きる術を教えた、あの先生にさえも。
「またあなたですか。死んだかと思いましたよ」
「おやおや。死ぬわけが無いでしょう。これでもあなたは強運の持ち主だと思っていますよ。……それに、あなたは死など恐れないでしょう?」
「あれが強運ですか……。僕のことが分かるんですか?僕でさえ分からないのに」
 エメラリーンはくすりと笑う。口元に持って行った手を下ろす動きでさえ、一つ一つがゆるりとしている。
「この部屋はあなたの一部であり、あなたはこの部屋の一部なのです。何度も言っているでしょう?そしてこの部屋の住人である私もあなた。あなたのことなら全て知っています」
 いつにも増して抽象的なことを言うエメラリーン。彼女の言っていることはいつも半分も分からなかったりする。
 全てを知っている。そう言うエメラリーンであるが、彼自身自分のことを全て知っているわけでもないのに。
「さて、今日はここまでにしておきましょう。おやすみなさい」
 終わりが来るのはいつも急だ。いつものこと。だからアンリはいつものように、彼女のその声と共にその緑の目を閉じた。

             ◆◇◆◇◆

 あれから二日が経った。

「アーサー、何やってるの。隊長に呼ばれてたの行くよ」
 ぐったりとしているアーサーを急かすアルモニカ。どうでもいいことだが、彼は自分の出した氷に足を滑らせ尾てい骨を骨折し驚異のスピードで回復したはいいものの、前庭を包んだ氷の処理をさっきまで副隊長と行っていたのだ。その後の上層部への報告。疲れていても仕方が無い。
「出した氷戻せないし凍らせすぎるしあなたって不便ね。……さあ早く行くわよ。あの子が起きたみたい。ちょっと気まずいけどやっぱり、謝りたいし……」
「ああ。結局あれ勘違いだったらしいな」
 荷物などを見てもそうであるし、話を整理すると、彼はただの魔魂武器使いの少年であった。急に逃げるような怪しい行動をとった向こうも向こうだが、こちらだって話を聞かずに戦闘態勢をとったのだ。

 あの少年がいるのは第一棟の地下。二人はそこへと向かって行った。

             ◆◇◆◇◆

「あの、これ!取れないんですって!」
「危ないじゃないか、どうして誰も魔魂武器を取らなかったんだ!」
「だから……!」
 第一棟のある地下室。味気ない簡素な白い部屋で、医務室の様だが必要最低限の物しか無い。そのベッドに座ったあの侵入者、アンリが声を荒げて身をよじる。その部屋には彼の他に数人教団員がいた。その内の一人が、彼が武器を装備していることに気付いて外そうとしているのだが、アンリが嫌がり揉めているのだ。
 アンリの左腕は骨折したので吊っており、体には包帯が巻かれている。どうやら寝ている間に手当てはしてくれているようだ。しかしその右手からは鎖が伸び、ベッドの脚へと繋がっていた。知らない間に誤解が解けたわけではなさそうだ。
 彼の魔魂武器、ティテラニヴァーチェはぐるぐると右腕の肌の上に巻き付いている。手袋をつけた教団員は、それを剥がそうと必死に掴もうとする。だが、取れる気配がない。
「な、なんだこいつ……取れない……」
「言ってるじゃないですか、ティテラは取れないんですって」
 汗の浮いた額をその白い手袋の甲で拭い、その教団員は諦めたのか後ずさり、部屋の隅に戻り何やら他の教団員と話したかと思えば、部屋の外に出ていく。代わりに二人の別の教団員が入ってきた。胸の徽章を見ると、さっきとは違い二人はエクソシストだと分かった。そのうちの一人の女性の腕は、歩く度に後ろへとはためいている。
「君の処遇を伝えに来た」
 彼の前で立ち止まり、赤みがかった黒髪の女性が言う。二つに縛った髪の左の根元には、三と書かれた赤い腕章。もしかして隊長だろうか。
「君の事情がどうであれ、君はこれから教団に所属してもらう。それが上の判断だ」
「は……?」
 妙なことを言う。
「所属を決めようかと思っていたのだが、各隊の隊長が揃わなくてな。今本部にいた三番隊と四番隊だけで決めさせてもらう」
 そう言って彼女は部屋の隅の方を向く。そこには、教団の制服の上に赤い女物の着物を羽織り、狐の面を被って腕を組んでいる人物がいた。存在感抜群だ。背はそこそこ高いが、髪も長く正直男女の区別がつかない。そんな狐はふふんと鼻を鳴らす。
「いいでしょう。どうせ貴婦人もジェイル隊長もそんなこと気にしないでしょうからね」
 その時、失礼しますという言葉と共に、扉が開いて別の眼鏡の教団員が入ってきた。手には分厚い本。
「あっありがとうございます!それです!それを届けにここまで来たんです」
 そう言って笑うアンリの前の二人の間に割り込む教団員。そしてぽんと隊長と思しき女性の隣にいた男性に手渡す。少し長い青みがかった黒髪を後ろにまとめ、まだ一言も声を発していない唇はゆるやかなカーブを描いて結ばれている。
「これをベルガモットに届けに来たんですってよ。ほらよ、隊長」
「スミス上級官。これは……?」
 女性は隊長ではなかった。黙ったままの彼の代わりに隣の彼女は、去っていく眼鏡の上級官に言う。振り返って彼は返した。
「こいつの言った通りですよロヴェルソン。これだけの為にここまで来たのだと。途中でハプニングがあって遠回りしたのか近道したのかこれじゃ分からないですけどね」
 眼鏡を押し上げ、呆れたように前髪を掻き上げるスミス。そんな彼には目もくれず、ベルガモット隊長が厚い本の革の表紙を開く。パラパラと見る限り、ただの聖書のようだが。その時、ベッドの上のアンリが口を挟む。
「146ページです。先生が言ってました。中身は知りませんが」
 言われたとおり、開くとそこにはピンクの可愛らしい便箋。周囲の空気が少しざわついたが、彼はその封蝋の模様を見てにやりと笑う。
「ラ、ラブレターみたいだが……。隊長……?」
 文字を目で追っていたが、突然手帳を取り出し何かを書き始めたベルガモット。一連の隊長の行動を不審に見つめる隣の女性。狐も彼に近付いて覗き込む。
「なら彼は三番隊に決まりということなんですね」
「つまりはまたあの"亡霊"なのですか。そしてベルガモット、また上に通さず貴方の独断なのですね。もうその展開は飽きましたよ」
 狐は呆れたように首を振る。ベルガモットはちらりと狐を一瞥すると、またさらさらと書いていく。それを見た狐は首を振る。
「"今ここで我々が見たのはただのラブレター"?分かっていますよそのようなことは。私を何だと思っているのですか」
 そして部屋から出る直前に振り返って宣言する。
「ただ、"亡霊"の災厄をその三番隊に引き込んだこと、後で後悔するがいいでしょう。私は四番隊隊長として責任は負うも、貴方の手助けは一切したくありませんからね!」
 そう言い放つと共に扉を閉める。しんとした部屋の中、隅でうつらうつらしていた青年がはっとして、「たいちょー!」と叫びながら部屋を出ていった。その扉を開けた時に「何あの狐。やな奴!」と言う、三番隊の二人からしたら聞き覚えのありすぎる声が聞こえた気がするが気にしないでおく。そして、部屋にはアンリを含め三人だけが残った。こほんと咳をして、前にいた女性がアンリに向き直る。
「と、言うことだ。じゃあそういうことで」
 いやどういうことですか。全くもって分からない。困惑し何か言いたげに口を開いたアンリをスルーし、彼女は続ける。
「武器使いの人数は慢性的に足りなくてな。教団は見つけ次第武器使いをエクソシストにしているんだ」
 つまりはどんな手を使ってでも、貴重な存在を自分達の戦力にするというわけだ。おめでとう。アンリの教団への不信感がまた一つ上がった。
 アンリの目的は先生からの願い、あの手紙を教団本部にいるというクロウ・ベルガモットという人物に届けること。結局それが終わるまで二年もかかってしまったが。先生はこれが終われば自由になれると言った。しかし正直言って、アンリは自由に生きろと言われても困るのだ。誰しも急に好きに生きろと言われても困るだろうが、特に今の彼には決定的に何か欠けていた。記憶喪失が関係しているのかは知らないが。全く主体性が無いと言われては仕方ない。しかし、先生と共に旅をした四年間や残りの二年間だけが彼の全てであり、未来のことなど考える余裕も無いのだ。だから、急に教団のエクソシストにされるという、はいそうですかでは済まないようなことも受け入れてしまったのだろう。
 一人になった部屋で考える。つい先日村に残してきた女の子のことが思いやられたが、彼女には兄がいた。きっと大丈夫だろう。そう思い、今日もアリア=レコードを訪れる。

             ◆◇◆◇◆

 こっちが第二会議室、あっちが食堂そっちは宿舎A棟。あとあれは医務室!と、指をさしながら歩くアルモニカと、必死に目で追いかけるアンリ。施設が沢山あり、いきなりで混乱するだろうが、くるくると回りながら目に見えたものを見えた順に、吹き抜けから見える上の階の施設を説明したりするので余計に複雑だ。正直全く分からない。
「ちょっ、ちょっと待ってください……!」
「ん、何か質問とか?」
 くるりと振り向いたアルモニカに、アンリはかなり初歩的な質問をした。
「あなたの名前を教えて貰ってもいいですか」
「あっまだだったっけ」
 実はアルモニカは、傷が癒えたばかりのアンリをいきなり「案内してあげるわよ!」と言って強引に連れ出したのだ。アンリは今、訳の分からないまま本部内を回っている。
「私はアルモニカ・フリィベル。教団第三番隊下級エクソシスト。君も同じよ」
 あっやっぱりそうなんですね……と。やはり本格的にエクソシストなのだとアンリはこの時腹を括った。
「他の隊員達より比較的暇だから、慣れるまで私がアシストする役なの」
 まあ私もここに来て一年も経ってないんだけどね。と言ってアルモニカは笑う。
「僕はアンリ・クリューゼルです」
「うん。知ってる、資料で見た」
「……そうでしたか」
 明快な切り返し。彼女の性格を垣間見た気がする。
 資料とはアンリが入団手続きとして先日書いた物だろうか。その時にチェックした上級官との間で、その書類の記述内容に関してもだもだがあった事を思い出す。それとも全く別物だろうか。どちらにせよ、こちらの素性は向こうに知られているということだ。
「ほんとあの時はごめんね。結果的に私のせいで君はエクソシストになることになっちゃって」
「別にいいんですよ。あの日あなたに会わなくても、僕はここに来るつもりだったんですから。そしたらいずれこうだったでしょう?時期が早まっただけですよ」
 嘘はついていない。ただその通りだと思うのだ。聞く人によってはとても嫌味に聞こえただろうが、彼女は特に気にしなかった。
「そっか、ありがとう」
 アルモニカが下を向いて笑う。突然、そんな彼女の背後から、下級官だと思われる青年がひょっこりと顔を出す。
「おやあ?アルモニちゃんなに照れてるのうぶっ」
 振り返りそのまま繰り出したアルモニカの蹴りを食らい、彼は床に伸びる。廊下を歩く文官達がちらりとこちらを見るも、長いポニーテールや伸びている人物を確認すると、気にせず歩いていく。……どうやらこれは日常茶飯事のようだ。
「あっごめんフレッド。いつもみたいに脚が滑ったわ」
「い、いいんだアルモニちゃん……俺だって学習してないから……」
 フレッドという黒髪の青年は、よろりと立ち上がる。
「ちゃんと用事があって来たんだぜ……あのさ、ロヴェルソン副隊長どこにいるか知らない?」
「副隊長?副隊長なら今三階で書類仕事してるけど。どうしたの?」
「レイン探してるんだけどさあ……あいつすぐどっか行くから」
「あーなるほどね。保護者お疲れ様」
「はあ。ホントそうだ……」
 レインという人物を探すのに、どうして別の人物の居場所を聞くのか。
 フレッドが去ったあと、アルモニカがくるりとアンリに向き直る。
「あ、なんか変なの見せてごめんね?今のはフレッド・ジョージア。同じ部署であり、うちの副隊長クラスタ、レイン・セヴェンリーのお守よ」
「お守ですか……」
 だから副隊長を探す方が早いのか。それにしても酷い言われようだ。
「そうだ!ついでにうちの隊くらいは説明しておくね。この前地下室にいた二人憶えてる?クロウ・ベルガモット隊長と、サクヤ・ロヴェルソン副隊長よ」
 憶えている。一言も声を発しなかった黒髪の男性と、その隣にいた腕の無い女性である。
「隊長はあんまり本部にいないの。今日も出てるわ。副隊長はちょっと色々不思議だけど、段々分かってくると思うの」
 あまり紹介になってない気もするが、段々と分かってくるのならそれでいい。そう割り切って聞くアンリ。
「あとは……。アルビノの子がいたでしょう?ヴィクトリアーラを使う。あの子はレイ・パレイヴァ・ミラ。あの子、小さいけど強いのよ。階級が私達より上なの」
 翼を持ち、鎌を奮うあの見るからに強そうな子供のことか。そういえば怪我をさせてしまったが、大丈夫だろうか。そう彼は考えているが、明らかに彼の方が受けた傷は酷いものであっただろう。
「そしてアーサー・エルフォード。あの残念な眼帯よ」
 一瞬にして前庭を氷で包む程の力を持った人物であるのにどうして残念なのか、今のアンリには分からないが後々分かるようになるだろう。それにしても酷い言いようだ。
「三番隊はこれで全部よ。隊と名前は付いてるけど、こなす仕事はバラバラなことが多いの。私とアーサーはまだ階級が下級でできる仕事が決まってくるからよく一緒に行動してるかな。君も多分一緒よ」
 隊なら隊で行動するのが普通だと思っていた。ここはなかなか変わった組織のようだ。

 三階の棟連絡通路を渡り、第二棟へと移動する。そして少し歩いたところで鍵の掛かった部屋へと入る。
 そのある部屋は、三番隊が自由に使っていい部屋のようだ。アルモニカは、机に無造作に置かれた冊子をアンリに手渡す。捲ると何やら要項が書かれている。
「いきなりだけど。私達、三日後に北のスヴェーア帝国に遠征を控えているの」
 ならこの冊子は、その遠征についてだろうか。アンリは困ったように笑う。
「ちょっといきなりすぎやしませんか……」
「まあね、君寝てたし」
 そう言って、ぽいぽいとアンリに色々な物を投げていく。慌てて抱え、手に掴んだ物の一つを見ると鍵だ。寮の鍵、この部屋の鍵、ロッカーの鍵。アルモニカが一つ一つ説明していってくれた。まだ彼女はここに来てまだ長くないと言った。その分丁寧にしてくれるのだろう。
 一通り説明を終えたアルモニカとは別れ、アンリはあの部屋へと戻る。
 ……説明されて分かったのだが、しばらく寝泊りしていたあそこは地下牢の隣にある医務室だった。部屋が決まるまでとりあえずの形で入れられているみたいだったが、怪我も癒えたからか、明日寮へと向かうように言われた。まあ地下牢と言われても特に何ともないが。
 とりあえず、眠いので今日は寝る。他人より睡眠欲と食欲は他人より強いと思っているけれど。……食事の配給係に呆れるように笑われたのは少し心外である。少し、多く食べるだけなのに。

 今日もエメラリーンに会うだろう。そう。きっといつもと変わらずに、あの青い部屋で座っているのだろう。
 白く、濁った優しい瞳で笑うエメラリーン。よく分からないけれど、夢の中以外で会ったことがある気がするのだ。また、いつかは思い出すだろう。

いらっしゃい、私の愛するこのアリア=レコードへ。

             ◆◇◆◇◆

閑話一「ルームメイトは」


 突然なんだが、俺の話を聞いてくれ。
 自分の部屋で倒立してたら、なんだか顔を見たことある奴が入ってきて、俺の顔見て「間違えました」とか言って閉めちまったんだ。でも何か俺、忘れてる気がするんだ。追っかけた方がいい?というか、まず倒立やめるな?

「ちょいちょいちょいちょい」
「?」
 前髪が長い黒髪の青年、フレッドが、まだ部屋の近くにいた少年を呼び止める。色素の薄い金髪で、振り返ったその瞳は緑。間違いない、昨日アルモニカと一緒にいた、最近教団に入ったという人物である。名前は確か、
「アンリって言うんだよな?あんた」
「僕のこと知ってるんですか?」
 アンリは目を丸くする。何となく、そこまで把握されているのか、という心の声が聞こえた気がするけど気にしない。
「まあな、俺ルームメイトになるって聞いてたし。まあ入れやー!」
 そう言って笑いながら部屋へと引き摺り込む。今日は休みだったんだ!と楽しそうに言いながら、戸惑うアンリを強制的に座らせる。
「昨日会ったぶりだな。俺はフレッド・ジョージア。よろしくな!」
「僕はアンリ・クリューゼルです。フレッドさんは、えっと、」
 考えたのは少しの間。彼はにぱっと笑って言う。
「ロヴェルソン副隊長クラスタのレインさんのお守でしたね!」
「あ、そうそう。……それ絶対アルモニちゃん情報だな。変なこと吹き込みやがって……」
 頭を抱えたフレッドは、急に思い出したようににやりと笑う。
「言い返すけどなあ、お前、結構有名になってるぞ」
「えっ」
「テロリスト疑惑を経てただの無実のおつかい、年齢詐称、謎の大食漢、ちび、」
「わーーーーー」
 後半全部悪口じゃないですかー!とぽこぽこ怒るアンリ。怒られたって、そうやって噂が回ってきたんだもの。俺に言ったって仕方ない。
「ちびって、フレッドさんとあんまり変わらないじゃないですか!」
「それは俺が小さいからだよ!そんな俺より小さいお前の負け!」
「まだ成長期来ます!」
「俺だって来ます!もうすぐ来ます!もうすぐ二十だけどなるまでにきっと来ます!」
 そうやってわちゃわちゃしていたら隣の部屋にいた奴にうるさいと怒られてしまった。あいつ、有給取って寝てたもんな。申し訳ない。

「なんかさ。いきなりハイテンションで絡んで悪かったな……」
「ノリを受けたらそのまま返すのが話法ですから」
 なんなのこの子よくできてる。え、ていうかじゃあさっきまで話法だからあのテンションで返してくれてたってこと?でも計算してあの返しはできないよな、でも…?訳分からなくなってきた。恥ずかしい。
「と、とにかくよろしくな」
 アンリはにこりと笑う。
「はい。よろしくお願いしますね」

 変な奴がルームメイトになった。俺、頑張って、生きるわ。悔しいし、背も頑張って伸ばすわ。







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