49話 幕間「花に滴るは溺愛の雨」

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【花に滴るは溺愛の雨・心配】

 サクヤが一人キャンプに戻ろうと歩いていると、すごい勢いで走って来た男に強引に担がれ彼女は瞬く間に救護テントに放り込まれた。

「もー!なんなんですかあれ!!ここからでも火が見えましたよ!俺見てましたよ!!」
「な、何が?」
 一番端の救護テントのベッドにサクヤを座らせてきぱきと怪我の手当をしながら、半泣きで憤慨する彼の名はレイン・セヴェンリー。正真正銘サクヤの恋人である。
「本当に怖かった!死んじゃうんじゃないかと思って!!あんなの危ないですなのにああやって!サクヤさんはいつも頑張りすぎるんです!!怪我もしてるし!もう!!」
「いや、まあ……」
 自分を心配して怒ってくれている。それを理解していたサクヤは素直に照れた。しかし、レインが心穏やかでない理由はそれだけではなかったらしい。
「一番駄目なのは、その後!」
「え?」
「部下と言えどエルフォード君に、ハ、ハグを……!」
 わーと騒ぐレインに、別のテントで作業していた彼の親友のフレッドの怒号が飛ぶ。しおらしくなったレインに、サクヤは宥めるように小声で弁明する。
「い、いや、あれは子供みたいなもんで、」
「あんな大きい子供がいたら困ります!歳も殆ど変わらないのにい!そういう思わせ振りな態度いっぱい取らないでくださいよ!うわーーん!」
「あれ、お前眼鏡どこやったんだ?」
「今言うことでもないでしょ!!!」
 顔立ちの良さを邪魔する縁の厚い眼鏡が無くなり少しだけ顔面偏差値が上がっていたレインだが、くしゃくしゃの泣き顔では全くと言っていい程格好が付かない。
「ご、ごめんレイン……そんなつもりは無かったんだ……」
 涙を拭ったレインは、顔を近付け真っ直ぐサクヤの目を見た。
「う、じゃ、じゃあ、俺にもハグしてください……」
 だが、サクヤは目をふと逸らすと首を横に振る。
「……できない」
「!?!?!!???」
 初めて明確に拒絶され、レインはショックのあまり目と口をあんぐりと開けて固まってしまった。……しかし、実際は心配に及ばなかったようで。
「変だな……。恥ずかしくて、できなくなった……」
 衝撃のあまり顔のありとあらゆる穴から液体を出した残念すぎるイケメンは、真っ赤な顔で震える小柄な恋人を抱きしめた。
「!!!!俺のサクヤさんが可愛すぎる!!!!」
「静かにしてそこのバカップル!!!!!」

 このあとめちゃくちゃハグした。



◆◇◆◇◆


【花に滴るは溺愛の雨・眼鏡】

「そういえば眼鏡が無くても見えるんだな」
 大方の仕事を終えたフレッドが二人の元にやってくる。サクヤは頷いた。
「ああ、レインは裸眼でも全く問題の無い視力だ」
「だって眼鏡あった方がなんとなく動きがセーブできるから。もういいや、掛けとこ」
「親友なのに初耳なんだけど……。サボる目安にしていたとは」
 レインは眉毛をはの字にしてぼそりと呟く。
「眼鏡が吹き飛ぶ程動いたら、手合わせの相手が大怪我しちゃう……」
 フレッドは頭を抱える。
「ああ〜そうだった。さすがゴリラ。その腹筋と馬鹿力はお前の性格には似合わないと常々思っていたしかし傷付けると思って言わなかったが今なら大丈夫だと判断したから言った」
 フレッドの発言は相当失礼なものであったが、レインは全く気にしていないようだった。
「でも、」
 レインは嬉しそうに笑うと、眼鏡のつるに手をかける。
「伊達でも眼鏡掛けてた方が、サクヤさんのことよく見える気がするから!!!」
「やっぱアホだこいつ!でもそれが理由だと思ってたよ!!」
 サクヤはそっと近付くと、レインの眼鏡を外した。
「レイン、そんなことしなくても、私はいつもお前によく見える距離にいるよ……」
「サクヤさん……」
「ちょっと急にイチャつかないでくれますかね」
 眼鏡を持ったまま振り返り、怪訝な表情を浮かべるサクヤ。
「イチャつ……?」
「ロヴェルソンさんってそういう所ありますよね!」
「いくらフレッドでもサクヤさんを悪く言ったら怒るよ、」
「ああああええっと」
 泣き虫で温厚な彼を怒らせるととんでもないことになるのをよく知っている親友は、引き攣る笑顔を浮かべ後退る。
「い、良い意味で!褒めてるんだよ……さ、眼鏡を掛けて……。ロヴェルソンさんも空元気出してないで早く寝て、顔青いですから」
「本当だ!!」
 立ち上がったレインは、勢いよくサクヤの目の前で両手を叩く。そのまま倒れ込むサクヤを支えて枕に頭を置いた。フレッドは有り得ないものを見た時の反応をしていた。
「え!?猫騙し!?もうちょっと別の方法あっただろ!」
「何のことかな」
「嘘!?何今の幻!?」
「うるさいよフレッド」
「それ一番言われたくなかったわ……」
 溜息を吐いたフレッドは諦めたのか、備品を確認するとテントを後にしようとする。
「班長には怒られるかもしれないけど、今人手足りてるから。お前、好きなだけそこにいていいよ。教団員として本当はこうするべきじゃないかもしれないけど、本当なんて、誰にも分かんないんだから。……別に、壁の外に出ても構わないし。メリゼルさんには俺から何とか言っとくから」
「……ありがとう」

「今は、無くても良いかな」
 レインはそっと眼鏡を外し、ベッドに手と顎を乗せ、恋人の寝顔を眺めていた。







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