【愛しているから】
日記はここで終わっている。白紙が幾分か残った状態で、日記は途切れている。本を閉じると、乾いた音と共に焼けた紙が少し机の上に散る。
シャルロットが持って来てくれたローセッタの日記には全てが書かれている訳では無いが、彼女には書いていないことも分かった。そこに書かれた嘘や、本音まで。勿論、本人が所々破ってまで教えたくなかったことまでは聞き出してはいない。
「ローセッタ……あなたはあの人のこと、大事に思ってたんだね」
頭の中で声がする。否定している。
「そうかな……だって、本当のことを知っても、ローセッタはそうすることを選んだんでしょ?」
{……そうね、あなたには隠し事はできないわ}
微笑んでいるような気がする。
「“本当のこと”が何なのか、私には分からない。でも、あなたはあの人の味方をすることにした。あの人を信じて、あなたは諦めずに足掻くことにした」
{でも、結局はこうやって、人間じゃ無くなってしまったわ。それに、あいつの味方をすることが、世界にとって正しいとは限らない}
「世界なんて、関係無いよ」
トーレは一人で虚空に向かって呟く。
「自分の大事なものを守ろうとしたんだから、駄目とか良いとか、関係無いよ」
{あなたはどうなの?}
トーレはハッと顔を上げる。だがその瞳は曇っていた。
「私は……みんなのこと、大好きだよ。でも、お兄ちゃんに、会いたい……どうしても、お兄ちゃんに会いたいの……お兄ちゃんは、たった一人の家族で、お兄ちゃんなんだもん……っ」
俯いた彼女は、ローセッタレンズと煤けた二冊の日記を抱き締めた。
{それはね、愛って言うの。あなただって、そうじゃない。……私はあなたの味方よ。あなたには幸せになって欲しい。大事なものの為に、悔いのない選択をして欲しいのよ}
「ありがとうローセッタ……」
そう呟くと、塔の目は日記と武器を手に、赤い服の彼らの元へと駆け出した。
『例え、私が全知の可能性を持っていたから、あんたが私を手放さなかったとしても。それでも、私はあんたの味方。……何故なら、私はあんたを――――――』
(終)