某日某所。親しい者だけを集めた小さな結婚式が行われた。
その後はチャペルの庭園で食事会ということで、各々楽しい時を過ごしていた。
ゴールドの花火は揺らめき、湧き上がり、消えては現れてグラスの中を彩る。祝杯に相応しいシャンパンと言いたいところだが、彼らが持っているのはノンアルコール飲料だった。
「いやあ全く。あいつらが結婚するなんて毛程も驚かないよな。もっと早く結婚するかとも思ったが」
「しかし、兄さんは私にこういうことをあまり話さないので、この前まで結婚するなんて知りませんでしたね。正直手を繋ぐ以上のことをしているのかさえ怪しい」
「それはある」
会場の端でこそこそと話す男女。新郎の妹のテンと、新郎新婦と仲の良いアーサーだった。
「あ、まあでもキスはさっき見れましたし?」
「結婚式だっつってんのに頬だなんて可愛いもんよな」
「あら、口にしているのを見たかったんですか?お願いしたらどうです?ほら、あそこに居ますから、ほら行ってきたらどうです?ほらほら」
「そこまで言ってないだろ!」
「ふふふアーサー照れてるの?」
「そういうので騒ぐのは子供だけなんだぞ」
「何だか馬鹿にされたような気が」
「したんだよ」
「ふーん。まあいいですけど」
テンは鮮やかな青のワンピースドレスを着ていた。幼さが残る顔立ちに、あまり伸びなかった身長。子供にも見えなくもないが、彼女はもう子供というよりは大人に近かった。それを自ら主張するかのように、金色の髪を長く伸ばし、踵の高いヒールを履いていた。一方アーサーは、成人してからあまり外見は変わらなかった。傍から見れば、仲睦まじいお似合いカップルに見えただろう。
「そう言えば、お前そのブーケ持ってどうするんだ?」
ブーケトスでブーケを獲得したのはテンだったのだ。彼女はふふんとそれを掲げてみせる。
「ブーケを手に入れた者が、次に結婚するんだとか……。でも、早く結婚することが良いことだとは限りませんよね。なんならあなたにあげますよ」
「俺は相手いないし貰っても困る」
「じゃあ私が持っておきましょう。彼とはまだそこまでの仲ではないので気が早いですが。でもあなたにも、どんな形であれ幸せになって欲しいですよ」
にっこり笑ったテン。運ばれてきたデザートの前にいたトーレに呼ばれ、「では」と手を振ってアーサーの前から立ち去った。
独りになったアーサーは、溜息をつきボソリと零す。
「はあ……何であんな可愛い子の告白断ったんだろ……」
「アーサーさん……」
「うお!」
背後からぬるりと現れたのは、タキシードを着たアンリだった。さっきまであんなに幸せそうに笑っていたのに、呆れたような表情をして眉間に皺を寄せていた。
「大変言い難いのですが」
「う、……見てたのか……」
「どこの誰とも知れない男にテンを預けるのは不安なので僕の希望としてはあるのですが、その、決めるのは本人なので……僕からは何も……」
「う、うるさい!下手なお兄ちゃんフォローやめろ!」
しどろもどろに慰めにもなっていない慰めをする新郎に、アーサーは頭を抱えた。
「というか聞こえていましたよ。失礼ですよね、さっき僕のことをヘタレだとかなんだとか」
「そこまで言ったつもりはないんだがそんなことを言うってことはお前がそう思ってたんだろ」
「ちゃんとしましたし」
「あいつに襟首を掴まれてな」
「そういうのも良いでしょう?」
「だいぶ浮かれてるなー」
アンリが咳払いをして続ける。
「あのですね。僕はできないんじゃなくてあまりしないんです、人前でそういうことは、」
「はいはい、分かった」
「信じていませんね?本当ですよ」
「分かった、分かったから……」
親友の惚気を聞くのは意外と面倒くさいとアーサーは後に語った。